2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

光の淵  小方又星  (詩ランダム)

光の淵 小方又星 空は動いてやまない。生命がそこに躍つてゐるのだ。 秋の空は白熱の信仰に燃えてゐる淵だ。太陽は見えないがあの光つてゐる雲を讚美しよう。 實に寂かだ。しかし、歡喜の絕頂だ。白金の焰よ、その坩堝で何を溶かしてゐるのだ。 『古典的な風…

タイプ(Ⅱ)  酒井正平  (詩ランダム)

酒井正平には「タイプ」という題の詩がいくつかあるようで、検索の都合上この詩を「タイプ(Ⅱ)」とした。諒とされたい。 タイプ(Ⅱ) 酒井正平若しも あるとしたら ユリの如く さむさにふるえ 思ひだした クラブのテラスで まづいスマツクを 嚙つた ツバメがま…

タイプ  酒井正平  (詩ランダム)

タイプ 酒井正平 ☆ ハリイと名前の 付いた男に 一番近い曲り角を ロンギノスに乗つて スミが彈く ピアノが好きだといふ──手袋の白い女の人とならんで ハリイの子が寫眞をとつてゐる ☆ イチゴ畑にリボンを落した少女と ゴルフリンクで ボールを追つ馳けてつた…

会話  左川ちか  (詩ランダム)

會話 左川ちか ──重いリズムの下積になつてゐた季節のために神の手はあげられるだらう。起伏する波の這ひ出して來る沿線は鹽の花が咲いてゐる。すべてのものの生命の律動を渴望する古風な鍵盤はそのほこりだらけな指で太陽の熱した時間を待つてゐる。──夢は…

夢  左川ちか  (詩ランダム)

夢 左川ちか 眞晝の裸の光のなかでのみ現實は崩壊する。すべてのものは銳く白い。透明な窓に脊を向けて、彼女は說明することが出來ない。只、彼女の指輪は幾度もその反射を繰返した。華麗なステンドグラス。虛飾された時間、またそれらは家を迂回して賑やか…

白と黒  左川ちか  (詩ランダム)

白と黑 左川ちか 白い箭が走る。夜の鳥が射おとされ、私の瞳孔へ飛びこむ。 たえまなく無花果の眠りをさまたげる。 沈默は部屋の中に止まることを好む。 彼等は燭臺の影、挘られたプリムラの鉢、桃心花木の椅子であつた。 時と焰が絡みあつて、窓の周圍を滑…

悲しき恋  西條成子  (詩ランダム)

悲しき戀 西條成子 白い一片のハンカチイフは風に舞つて森の奥の靜かに靑む沼の面に落ちたのですそこは若葉がゆれゆれて駒鳥は唄ふ晩春でしたがやがて靑白く染つてハンカチイフは底知れぬ沼の暗さに沈んで行つたのです 『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933…

雲のかたち  左川ちか  (詩ランダム)

雲のかたち 左川ちか 高い波の銀色の門をおしあけて行列の人々がとほる くだけた記憶が石と木と星の上にかがやいてゐる 皺だらけのカアテンが窓のそばで集められ そして引き裂かれる 大理石の街がつくる放射光線の中をゆれてゆく一つの花環 毎日 葉のやうな…

春  左川ちか  (詩ランダム)

春 左川ちか 亞麻の花は霞のとける匂がする 紫の煙はおこつた羽毛だ それは綠の泉を充す まもなくここへ來るだらう 五月の女王のあなたは 『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933年)6月 左川ちか 雲のかたち左川ちか 白と黒左川ちか 花咲ける大空に左川ちか …

蜻蛉  井上多喜三郎  (詩ランダム)

蜻蛉 井上多喜三郎 靴みがきの大將は お天氣にまでブラシをかける 〈僕の足趾をとらへると のんきに口笛をふいて〉 スツールのまわりで いつも 香を噴く新英ら となりの花屋が頰に映つて僕を離れるネクタイでした。 ※原詩では、「映つて」の「映」→「うつ」…

目覚めるために  左川ちか  (詩ランダム)

目覺めるために 左川ちか 春が薔薇をまきちらしながら我々の夢のまんなかへおりてくる。夜が熊のまつくろい毛並をもやして殘酷なまでにながい舌をだしそして焰は地上をはひまはり。 死んでゐるやうに見える唇の間にはさまれた歌ふ聲の──まもなく天上の花束が…

冬の詩  左川ちか  (詩ランダム)

冬の詩 左川ちか 終日ふみにぢられる落葉のうめくのをきく人生の午後がさうである如くすでに消え去つた時刻を吿げる鐘の音がひときれひときれと樹木の身をけづりとるときのやうにそしてそこにはもはや時は無いのだから。 『MADAME BLANCHE』第4号 昭和8年(19…

花咲ける大空に  左川ちか  (詩ランダム)

花咲ける大空に 左川ちか それはすべての人の眼である。 白くひびく言葉ではないか。 私は帽子をぬいでそれ等をいれよう。 空と海が無數の花瓣をかくしてゐるやうに。 やがていつの日か靑い魚やばら色の小鳥が私の頭をつき破る。 失つたものは再びかへつてこ…

言葉  井上多喜三郎  (詩ランダム)

言葉 井上多喜三郎 帽子の中に言葉はなかつた。 帽子もすでに 儀禮を越えた。 僕等のまわりにもえてゐるお天気。 僕等は氣球よりも輕い。 飛翔する 不誠実な言葉の領域から。 『MADAME BLANCHE』第5号 昭和8年(1933年)2月 井上多喜三郎 花粉井上多喜三郎 徑…

時間  井上多喜三郎  (詩ランダム)

時間 井上多喜三郎 近よる時間を帽子の中へかくしておいた。 急いでやつてくるあの子。 僕は帽子をとつて 高く打振るのでしたが帽子の中からは 花粉が麗かにとびだして 僕等をすつかり包むのでした。 『MADAME BLANCHE』第10号 昭和8年(1933年)10月 井上多喜…

花見酔客  西條成子  (詩ランダム)

花見醉客 西條成子 襲ひ來る寂しさは秋のブドウの味でした美しく花の咲いた或日に旅人はその下に甘露の酒をのむのです夢は幾つもの山や河を越えてそこに旅人は唄ひ又踊るのでしたそんな夢からさめて旅人は又もたまらない秋の實を見出さねばならなかつたので…

静かな饗宴  澤木隆子  (詩ランダム)

靜かな饗宴 澤木隆子 わたしの明るい罪惡悔ゐなき魚族の沈默スリツパから立ち上る夕ぐれの虹のだんだら いもうと お前は明暗のレエスを引きしぼる緞帳の紅をゆすぶるここの階段にリユストルをともしてくれる おまへはわたしの足もとの疲れた花片をたんねんに…

星の転生  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

星の轉生 高木春夫 窓をあけて星をながめたとき風は赤ん坊の生毛のやふに、やはらかにさらさらと流れたではないかゆふぐれ、山のなかのひとつの池を眺めなんといふものさびしい遁世の志をいだいたことかその瞬間の頰えみを湛えてゐたことがいまは遠くすぎさ…

オペラの部  饒正太郎  (詩ランダム)

オペラの部 饒正太郎 チエツコスロバキヤの鵞鳥よ料理屋のギターよけふは床屋の結婚式葡萄の實を投げたまへ ☆ サン・ジユアンの祭の日君は茶色の自轉車をこはしたね戰爭はまもなくつまらなくなるよ 太陽は馬丁のそばで薔薇のやうにピカピカするしボオンピイ…

説話  酒井正平  (詩ランダム)

說話 酒井正平 タイマツの點いてる暗さから遲々として落ちる指の様に指に基く言葉を點火(とも)ることに近付けてる 表裏ある空が映るアタゝカイその次にもたれる知性は還々的なる投影法が僕に飛行機をおしへるより飛行機にもとづく すぐれた中世の沈開法がヴ…

七日記  酒井正平  (詩ランダム)

七日記 酒井正平 綠色はつながつてゐる鍵をもたない金粉とそれを季節を分けてメタル學者と步かなければならない電話でそれを斷つてみえるが晝食はオレンヂ色の動物學者ととり草花は生えないと自意識する忘れた盾をグラモフオンの中に見つけだしてる… 『MADAM…

策取  西條成子  (詩ランダム)

策取 西條成子 靑い風の中を悲しく光つて柩が通るとき 白い夜の奢りの饗應に花の蹂躙を忘れなかつた 惡魔等の冷たき笑ひはそこに始まり あやしげなその響きは谿間の白い階段に突き當つては 死んで行くのでした。 『MADAME BLANCHE』第8号 昭和8年(1933年)7月…

鷲の棲む皿  荘原照子  (詩ランダム)

鷲の棲む皿 莊原照子 Ⅰ苦痛は夢よりもなほ優しかつた リルよりも──あの影はヒイスのある銀砂の日白い鷲をゆめみてゐる 羊毛を斷ちつくす手のその蔭衣ずれは這ひ寄り うすれ陷没する闇の背部からは水色の髪だけ脫れ出る Ⅱ 夜の笹やぶを透かし鳥らは苑の一隅を…

水の無い景色  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

水の無い景色 高木春夫 三階の窓から黃いろい聲をだして私の名前を呼んでゐる練瓦の累積のなかにぢつと立て寵つて枠のなかにはめた人像寫眞のやふに尖らない 永い間獨り言の騷音に聽きいりながら、決して決して怯えやふとはしない椅子はむかふの窓ぎはへコツ…

アスフアルト・スクリーン  近藤正治  (稲垣足穂の周辺)

アスフアルト・スクリーン 近藤正治 裏かへしになつたアスフアルトの上に果てしなくのびてゆく幻燈の新都市では何處からだつて月ならのぼるよ新聞から パイプオルガンから 飾窓からそしてゴールデンバツトの綠色の空へでもやつてくる月ピカソの月ならなほさ…

銀座の若いキリスト  近藤正治  (稲垣足穂の周辺)

銀座の若いキリスト 近藤正治 ピアノのなかのホーキ星エナメル塗のキレイな夜ですボール紙と針金の敎會で凸レンズの月を喰べませう銀座の若いキリストはジヤツヂやワルツの跛つこですむろん手足は花火だらけで心臓が奏樂時計でございますきらきらとしたシル…

ココアの夢  近藤正治  (稲垣足穂の周辺)

ココアの夢 近藤正治 ギダから月が昇りかけた星がきらきらブリキの街でやつと電車の喰へることに氣がついたのでフイルムの中から拔けだしてきたらあちらこちらのタイヤの影からキユービズムの顏が笑ひを組立てゝゐた夜は心臓が居ない丈でもうれしいね色はコ…