2017-01-01から1年間の記事一覧
・窓の銅板 ホトホト鳴る月の鳩舎 花の莢はじけて黄ばみそめた ・霧の中の銃眼 斜面を走る空色のボタン 匂ひわすれて崖の家へ翅(はね)いた ・裝身具 故國に觸れる聰明な音樂 白馬の館に朱線を忘れる ・豁谷の踵 橋のむかうで白い肩から花のやうに睫毛にふれ…
・街燈の影にしほれるコロニイ 踊子達は花束の手術をうけてゐる ・機械になつた踊子達 笑ひを押しつけられて花束が崩れさう ・旅愁の馬が走り去つた 綠のモノロオグ 踊子はナイフの足で滑つてゐた ・海の大きな窓 落下傘が花束になつて浮びあがつてきた ・夢…
PHONO DE CIRQUE 山田一彦ミユジイクの眼鏡をかけたミユジイクはサアカスの遠い聲である ミユジイクの白い馬はサアカスの遠くなる厚い帽子白い馬は寫眞のリボンとともに鍔にうすくなる遠くなる煙の帽子をかむせて居る 『衣裳の太陽』NO.2 昭和3年(1928年)12…
「私の庭球」 ・物質の倫理を・さつと かきみだす、コオトの白い動く 斑點 ・プレイヤアが 作りあげては・こわしてゆく、速力の形而上學。これは。 ・ひらいた右足に・かかる重點、支へた體(からだ)のひねり バツクストロオク。 ・均整された姿態がくづれて …
CINEMATOGRAPHE BLEU 山田一彦 雨のふる虛飾的の夕暮に噴水のある泉のレダが白鳥に乗つて居るあの頭をみてごらんなさい・彼女の聲を聞いてごらんなさい・ エレエヌよ・雨のふらないことと雨のふらないことほど愛することと愛することは違つて居る・エレエヌ…
二重の白痴 ou Double Buste 山田一彦 エツフエル塔のサロメは無花果を載せた皿を廻して居るエツフエル塔のヨハネはフオクが無いのでメガフオンを廻して居る BUSTEの光を浴びた砂漠の聲が土耳古風呂の浴槽にあるテレフオンから聞えてくる・ 『汝サロメよ・五…
昭和初期は、林亞夫とともにエリオット、パウンドの影響下にあったようですが。 ・椅子の向ふに傾く海 記憶のシュミーズ 少女はリボンが何故悲しいか ・風は白い廣場で廻らない 蒼褪めた銅像の上に影が降りてくる ・丘を蒙古風のアクセントが越える 少女の素…
戦後は林民雄の名で歌を発表している。昭和12年ごろは、山田盈一郎とともに、エリオット、パウンドに惹かれていて、ポエジー派の颯爽たる理論家として知られていたらしい。簇劉一郎の友人の同名の童話作家は彼のことか。 ・醫學生が兎を買ひにゆく 花粉のな…
・自動階段(エスカレーター)。花ひとつ。私の足元まで昇つて來て踠(もが)いてゐる ・自動階段(エスカレーター)。自動階段(エスカレーター)。花ふたつ。平行に昇つて來て、左右の窓から別々に別れて行つた。 ・自動階段(エスカレーター)。花ふたつ。ひとつリ…
グウルモンにささぐ 衣巻省三 シモオヌ 雪はそなたの脛のやうに白い シモオヌ 雪はそなたの手のやうに冷い たそがれ 丘の上に雪がわたる丘の下ではたくさんのシモオヌが死んでゆく 無題 月光に空氣銃の先がひかつてゐる猫はむかふをむいて動かない私はトラン…
・線條は面を幾何學的に劃し、風は常に新鮮である。さすがに畫布の上で女は永遠に微笑する。 ・ある夜壁面(へきめん)に白い花が開き、心臓が黄いろいふくらみを覺える。さて、心靈學者は徒に神秘を創造する。 ・忘れられたやうに朱塗の硯箱が置かれてゐる。…
歌人としては簇劉一郎または会田毅(本名:あいだたけし)、推理作家としては北町一郎。簇劉一郎は「そうりゅういちろう」と読むらしい(『論創ミステリ叢書 北町一郎探偵小説選Ⅰ』解説)。 ・東南風曇後晴 測候所横のグランドで 失策の多い試合が始まる 梅雨ばれ…
だが、毎日、御天守の上空を翔ひ乍ら、斯うした盡きぬ怨言の縷々を吐き連ねてゐた鴉は、或る日、不圖、或る奇怪な出來事に兩眼を見張つた。と言ふのは、今の今まで自分の眼下に繪巻のやうに靜かに鳴りを潜めてゐた城廓と其の周圍の湖水とが、どうやらメリー…
怪しげな天守樓の上半身が、暗黑の松松に深々と腰をば埋めて、默々として夢魔のやうに、又、幻影のやうに夜半の天空を摩してゐた。そして、此の高樓の半面は、今しも夕立のやうに烈しく降り注ぐ月光に洗はれて、恰も羽擊(はばた)くやうな白々しさに晝を欺き…
──(夢の中の鴉が城主であつた時に見た夢の中の鴉が城主であつた時に見た夢の中の鴉の獨白)………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
そゝり立つ夏雲の峯を背に負ふた嚴(いか)めしい天守樓の上半身が、鬱蒼とした老松の綠靑(ろくしやう)いろの梢の上に、琥珀いろの天日の光に沐浴し乍ら、恰も世にも巨大な鎧を据えたやうに、魔の如く無邊の天空に懸つてゐた。灰いろの石崖が城を包んだ森をば…
火山 ・霧すくなく立つ かたむけよと我がてのひらをかへす めざめてあればまなかひにくもる歌よ ・入江ある島にすむわづかなる作法にいたいたしいまひるの朗誦の吃音である ・麻の袋 その低いトオン 老いたソリジア 濱名湖の靑い寫眞がうつる ・人工の印象 …
・帆柱の四五本が搖るる月夜空しろく羽ばたきて過ぐるものあり ・人或は眺めやるべし海原に夜ふけて赤く月ぞ照らせる ・夜はふけてやどかりうごく磯の岩娼家のあかりおよび來らず ・磯の空ときにひるがへる蝙蝠(かはほり)は月夜さやけみよく遊ぶらし ・部屋…
春日 衣巻省三 猫と一室に戯れつくしても暮れなかつたもう殺すよりほかない!首をしめ終へると日はやつとくれた死んだ猫はピクピク手を動かすのを止めない春日は夜の中に僅かに生き殘つて手を動かしてゐる 空腹 初めお腹の中に虹がたつてゐる──あした天氣に…
稲垣足穂と共に、佐藤春夫のところへ出入りしていた衣巻省三の詩です。 毀れた街 衣巻省三 小 鳥 胸の中に豆電氣がともつてゐる 航 海 魚となつててのひらよ、艶やかな襟首の流れを下り、たぐひまれな彼女の入江にまで、春日遲々とたゞよひゆかん。 毀れた街…
見たところ野球用のバツトであるが、提げてみるとノツク・バツトよりもいつそう輕いから携帶には至つて便利なしろものである。實際は樫の棒に似せたボール紙の細工物であつて、その中腹から左右に一本づゝ都合(あはせて)二本のゴム管が垂れさがり、又、その…
俊一郎は岬の突端に建てられた赤い屋根の家で、哀れにも夢み勝ちな腹膜炎を患ひつゞけてゐたのです。そしてそのゆへに此の不幸な少年の心の悲しみは、もう長い年月、水色でありました。病室の窓のほとりに其の涯は空の極みと相寄る海を眺めながら、早く秋が…
・いちども冠(き)せぬベレツトといふ帽子それも柩(ひつぎ)に入れてやりたり ・樂しげに落語聞きをるこの男がつねにイデオロギイを口にする男か ・夕明(あか)る海を見おろし見おろして居留地街にのぼり來れり ・羅馬のコルシアムを思はす街を歩み蔦におほはれ…
……薫の高い白檀の林の生えた龍宮の門前の庭をめぐつて外界と境をして小川が流れてゐる。そこには黄金の橋が懸つてはゐるが下は溷(どぶ)の流れである。半月形をしたその橋の黄金の階段に腰をかけた二人の侏儒が、柔かな小人革の赤靴をはいた兩足をぶらぶら動…
我等の悲しき暴君は己れにも他(ひと)にも分らぬ恐ろしい孤獨の悲惱を抱いてひとり海に生れながら、海に棲む者の群を遁れてその力のままに有限の海に無限無終の慘忍三昧に耽つたのである。魚を、魚を、限りなき魚を幾代となく彼の種族は悲しく貪り啖ひ飽くこ…
B 私の母は生れた時、その嬰子(あかご)特有の赤い頭は公方柿のやうに尖り、またその眼は櫧子眼だつたと云ふ。出産祝ひに親類の畫家が蛸の繪を描いて送つて來たので、私の母の母は産褥(とこ)の中で齒がみして怒つたとか云ふ話。── C 私はこの夏、八月三十一日…
稲垣足穂編集『文藝時代』「怪奇幻想小説特集号」(1926年8月)に掲載された遠藤忠剛の傑作。一種の怪獣小説? ご高覧あれ。 A AA 何時の日から、又なにのためだかしらぬ、兩肩の筋肉が巖疣瘤(こぶ)となつてもりあがつた毛だらけの眞黑な大男が三里四方もある…
Salutation 冨士原清一 1 玻璃性白色光線の浴室に、輝かしい洋銀の皿あるテーブルに倚り、銀色のナイフとフオークをとりつゝ、はや少女は噴水のなかにある凡てのものを想像し盡してしまつた。 いま少女は、彼女のつゝしまやかな5つの白百合の花びらをつゝむ…
無限の弓 山田一彦 火の如き蜘蛛の絲絲への演繹され得る慾望への指環 その肉感を露出せるひとつの蓮を拒否するための龍宮の旗旗への肖像の搖れる 斷然たる夢 それらの花の如き生殖器は大空への否定のための傳統を切斷せし犧牲である 永遠の自殺を可能ならし…
「四季」派の詩人丸山薫の弟で、稲垣足穂から"宝石細工のような小品"を書く幻想作家とされた丸山清の代表作。ご高覧ください。 翼をひろげればコンドルよりも大きくなるが窄めれば雀よりも小さくなる不思議な鷹が献上されて、天守閣のいちばん高い軒に美しい…