2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

石川信雄『シネマ』Ⅱ (モダニズム短歌)

・嬰児(みどりご)のわれは追ひつかぬ狼におひかけられる夢ばかり見き ・黒ん坊の唄うたひながらさまよつた街(まち)の灯(ひ)のくらさ今もおもはる・すばらしい詩をつくらうと窓あけてシヤツも下着もいま脱(ぬ)ぎすてる ・あやまちて野豚(のぶた)らのむれに入…

斎藤史『魚歌』Ⅲ (モダニズム短歌)

・夜毎(よるごと)に月きらびやかにありしかば唄をうたひてやがて忘れぬ ・たそがれの鼻唄よりも薔薇よりも惡事やさしく身に華やぎぬ・夕霧は捲毛(カール)のやうにほぐれ來てえにしだの藪も馬もかなはぬ ・定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジヨ…

斎藤史『魚歌』Ⅱ (モダニズム短歌)

・山の手町がさくらの花に霞む日にわが旅行切符切られたるなれ ・野生仙人掌(さぼてん)や龍舌蘭の葉に刺されゆく白い不運はしあはせらしく ・南佛にミモザの花が咲き出せば黄のスカーフをわれも取り出す ・赤白の道化の服もしをれはて春はもうすでに舞台裏な…

筏井嘉一『荒栲(あらたへ)』Ⅱ (モダニズム短歌)

・天気よく郊外の道をさまよへばRousseau(ルウツソオ)描(か)きし樹(き)や家があり・やるせなくO.Sole,mio(オ・ソレ・ミオ)はうたへどもわが太陽は今日も照らずも・映畫にて巴里(パリ)あはれなる戀がたり見てゐしほどはまだ救はれき ・澤庵を咀嚼する母の脣(…

筏井嘉一『荒栲(あらたへ)』Ⅰ (モダニズム短歌)

・夢さめてさめたる夢は戀はねども春荒寥(くわうりやう)とわがいのちあり ・わが内(うち)に神を見ぬ日ぞ焦燥す肉體ひとつおきどころなく・めざむればラヂオ鳴るあれは春の唄Mendelssohn(メンデルソーン)に朝なごみゆく (メンデルソーン=メンデルスゾーン) ・…

小玉朝子『黄薔薇』Ⅱ (モダニズム短歌)

・くらき空に海蛇(ヒドラ)うねれりひとりごゝろ清しみて窓をとざしけるかも・掌(て)をあはせ千萬年の星々の地に下りるさまをみつめつゝ居り ・白き熊空のはたてを横切りたりいきれに立ちて吹きおりる風 ・木に花咲く五月となれりしかすがに花野のなかに墓地…

津軽照子『秋・現実』Ⅱ (モダニズム短歌)

・まどに赤い花さいて 芯に刺客の眼をひそめる 〈月曜〉・しろい女體の しろい猫の媚 カンヷスもしろいままで 〈火曜〉・夕やけ鏡まで染めて オペラ開場の時間が迫る 〈金曜〉・涅槃の繪のけだものか 父の死床 最後といふにただ泣いてゐた・あをぐろい星の夜…

津軽照子『秋・現実』Ⅰ (モダニズム短歌)

・ひるの月かげ 嫁(ゆ)く人の 見られねばならぬかほを粧へ ・かけすすりぬけた林の隙きま しろいあかりの おもひでを見た・茨の實いかに色づいても枯野の 孤獨(ひとり)のつみが ゆるされぬか・いつぴきの栗鼠がすむ枯野原 地軸さわさわしら雲をくり・郵便配…

小笠原文夫『交響』Ⅰ (モダニズム短歌)

・並びゆく少女がともの足揃ひ一様になびくすかあとの襞 ・嬬(つま)さびて今はあらめとおもひつつ少女すがたは眼に浮ぶもの ・いまにして忘れがたかるひとのありわすれてしまへと首うちふりつ ・ギリシヤ型の顔を少女が拭きたればへリオトロオプが清しく香へ…