2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

日野草城  (モダニズム俳句)

「ミヤコ・ホテル」十句 ・けふよりの妻(め)と來て泊(は)つる宵の春 ・春の宵なほをとめなる妻と居り ・枕邊の春の灯(ともし)は妻が消しぬ ・をみなとはかゝるものかも春の闇 ・薔薇匂ふはじめての夜のしらみつつ ・妻の額(ぬか)に春の曙はやかりき ・うらら…

平畑静塔  (モダニズム俳句)

・花が散る村のポストへ看護婦が ・そのころの解剖(ふわけ)の畫帳曝しあり ・舟鉾の螺鈿の梶があらはれぬ ・瀧近く郵便局のありにけり ・燈籠と泳ぎ別るる荒男見ゆ ・白き霧あふれて開く朝の門 ・セツト輝(て)り含嗽ぐすりの色靑き ・女優出て月光冴ゆるセツ…

横山白虹  (モダニズム俳句)

・春晝の線路步めば咎めけり ・病院の春夜の跫音(あおと)たまさかに ・椿道ふむや漂ふ月の色 ・自動車の灯おつるところ草の王 ・霧の奥灯るごとく月出でぬ ・よろけやみ七夕ながすものに從(つ)けり ・よろけやみあの世の螢手にともす ・街上の雪はしきりに圖…

東京三(秋元不死男)  (モダニズム俳句)

・氣球浮き囚徒に奢る街眩し ・市場(いち)たけなは理髪師椅子にゐて眠る ・靑果散り日覆からからと商區覺む ・肉フライ造船工の歸路に盛られ ・造船工にパン屋の騾馬が遅れつつ ・ペダル踏む少年工に町は祭 ・造船工歸り龍骨地に灯る ・耶蘇のうた嗄れ運河も…

三橋鷹女  (モダニズム俳句)

・すみれ摘むさみしき性を知られけり ・蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫 ・手花火のしだれ柳となりて消ぬ ・春の夢みてゐて瞼ぬれにけり ・夏瘦せて嫌ひなものは嫌ひなり ・しづかにしづかに地球はめぐり萩の咲き ・煖爐灼(や)く夫(つま)よタンゴを踊らうか ・…

藤木清子  (モダニズム俳句)

・古衾惡魔に黑髪摑まれぬ ・向かいの壁が眞赤で夜なべ鍛冶 ・麥の穂や海の深淺あきらかに ・初秋よし靜脈透きて脈搏つよ ・飢えつつも知識の都市を離れられず ・さびし春機械の如く生くる妻 ・ひとり身に馴れてさくらが葉となれり ・花の風つよければ海藍靑…

片山桃史  (モダニズム俳句)

・泳ぎ寄る眼に舷の迅かりき ・鋭(と)きこゝろヨツトを迅く迅く驅る ・六月の懈怠ランチは河を駛る ・雨ぬくし神をもたざるわが怠惰 ・影法師動くことなし雁渡る ・雁なけり醫師の眼鏡が壁にある ・雁ないて額に月の來てゐたり ・樂器店菊咲き樂器ひやゝかに…

篠原鳳作  (モダニズム俳句)

・うるはしき入水圖あり月照忌 ・夜々白く厠(かはや)の月のありにけり ・ガチヤガチヤの鳴く夜を以てクリスマス ・マドロスに聖誕祭のちまたかな ・炎帝につかえてメロン作りかな ・よぢのぼる木肌つめたしマンゴ採り ・龍舌蘭(トンビヤン)の花刈るなかれ御…

渡辺白泉  (モダニズム俳句)

・街燈は夜霧にぬれるためにある ・あまりにも石白ければ石を切る ・山蔭にゆふべ眞赤な石を切る ・象使ひ白き横目を綠蔭に ・まつさをな空地にともりたる電燈 ・横濱の靑き市電にものわすれ ・めしひたるひとのまはりを歸る雁 ・夏童女緬羊の顏刈る見たり …

富澤赤黄男  (モダニズム俳句)

・爛々と虎の眼に降る落葉 ・冬日呆 虎 陽炎(かげろふ)の虎となる ・凝然と豹(へう)の眼に枯れし蔓 ・寒雷や一匹の魚天を搏ち ・海昏(く)るる 黃金の魚を雲にのせ ・草原の たてがみいろの 昏れにけり ・火口湖は日にぽつねんとみづすまし ・もくせいの夜は…

高屋窓秋  (モダニズム俳句)

・我が思ふ白い靑空ト落葉ふる ・頭の中で白い夏野となつてゐる ・白い霞に朝のミルクを賣りにくる ・虻とんで海のひかりにまぎれざる ・蒲公英の穂絮とぶなり恍惚と ・さくら咲き丘はみどりにまるくある ・灰色の街に風吹きちるさくら ・いま人が死にゆくい…

西東三鬼  (モダニズム俳句)

・聖燭祭工人ヨセフ我が愛す ・燭寒し屍にすがる聖母の圖 ・あきかぜの草よりひくく白き塔 ・貝殻のみちなり黑き寡婦にあふ ・風とゆく白犬寡婦をはなれざり ・聖き夜の鐘なかぞらに魚玻璃に ・東方の聖き星凍て魚ひかる ・水枕ガバリと寒い海がある ・黑馬…

モダニズム俳句 目次

小沢青柚子 片山桃史 桂信子 神生彩史 神崎縷々 喜多青子 西東三鬼 篠原鳳作 すずのみぐさ女 高屋窓秋 富澤赤黃男 中村節子 東京三(秋元不死男) 日野草城 平畑静塔 藤木清子 三橋鷹女 横山白虹 横山房子 渡辺白泉 このブログ作成に関してオーテピア図書館(県…

風景  酒井正平  (詩ランダム)

風景 酒井正平 指頭にでゝ馬の様に笑ふ。果實の中で他人の花をまちがへる。オトトヒそれは路で野望をいだいた。何故(な)かバイソンを愛さなかつた。ロヂツクの時間女學生達は草むらで寢てゐた。「センセイハ主知主義者デイラツシヤイマス」 『MADAME BLANCHE…

悲劇役者  伊東昌子  (詩ランダム)

悲劇役者 伊東昌子 夢々を駭かしては 洋燈を灯して沖へ歸らう 永い旅のあとのように 林檎の花が燃える お午過は家禽たちの葬式 を見てゐる 『MADAME BLANCHE』第17号 昭和9年(1934年)8月 伊東昌子 海の方へ 伊東昌子 失踪するエロイカ 伊東昌子 南方飛行便 …

温雅なる作謀に付いて  酒井正平  (詩ランダム)

溫雅なる作謀に付いて 酒井正平 季 節 畵廊について鶴があるいた しかし それは戀人たちよりも少なかつた 手をひらいて窓をあけた ケイトウの裏側に 算用數字がかいてある 類 似 譚 太陽の 奔發 ! だけど 路には よつちや いない 片側に 倚せながら あたしは…

窓(Ⅱ) 酒井正平  (詩ランダム)

酒井正平にも「窓」というタイトルの作品がいくつかあるようで、検索の都合で「窓」Ⅱ としています。 窻 酒井正平 ソケツトに入れた家に疲れ花を花に返さうとする小さい慣ひでアントルシヤーおどる男がでてくる所は塔は曲らずにアンズの林が數多い飼ふ事より…

美しい季節 その他  西崎晋  (詩ランダム)

美しい季節 西崎晋 あの優しさの紫の花には緣飾りがあつてけふあのひとの瞳をわすれる流れの中にゐた水よ靜かにおりてくる夜の微笑やけもの達の群にもちかく菫は生れてゐたやうに 植物 水中植物には 星くづが墜ちてゐます泡たつ白のイペカはいかがです 醉つ…

声  荘原照子  (詩ランダム)

聲 莊原照子 襞がある手 夜々を支へる白い門扉 薔薇旗をすて去つた休息の巡邏が この冷ややかな立像の素足へ灰をふりこぼすと そこから無數の熱い夢が飛沫となつて生誕する……憐愍は漂ふ犬橇の鈴の音(ね)に耳環を漂らし乍ら かく散り呼ぶ 失意の灯(ほ)かげを…

沼欣一  (モダニズム短歌)

・下げ髪の馬車を見よ うららかさうに 囚人よ春をきれいな枝をつかひながら ・おもしろい春の遊動圓木を越えてくる かたつむりの窓が ああ 靑くて ・オランダの風車 ふたたび笑ふ 明方はやくあやめの花よ眼をあけよ ・雨はらんぷのやうに搖れるだらう 野づか…

海賊 その他  西川満  (詩ランダム)

海賊 西川滿 俺は船長だった。海洋の日没が俺の心を襲ひ、船腹を血に染めた。黒死病で倒れた舵夫の屍を水葬に附した後、俺はいつか盲目(めしひ)になつてゐた、盲目に。 豹 俺を救つてくれた若い豹よ。きみのそのたくましい肉體のうねりに、俺は愚かな過去の…

河  笹沢美明  (詩ランダム)

河 幼兒に與へる 笹澤美明 おまへから河が流れるまだ地下水のやうにかすかに響く兩岸はすべて宇宙だ季節は花々を映し月々は果實を投げる河口は遠くにあつて見えない未來とは夢だそれは神だおまへはつかむことが出來ないそれは時間の微粒分子が形づくる雲だお…

春苑  笹沢美明  (詩ランダム)

春苑 笹澤美明 かつては櫻の苑の中にゐたあなたの瞳(め)と一緒に、あなたは信賴されまるで樹々を支へてゐるやうであつたやがて花噴く枝を。 あなたは苑の中で堪えてゐたゲツセマネの園のやうな暴風の豫感の中で私が送り出す獸を冷かに一匹づゝ捕獲した。 つ…