2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧
・新涼の玻璃に描ける白き裸女 ・蟲の音をビルの巷にうたがはず ・月の潮白きランチが截りゆけり ・暖房や大き裸婦の圖を壁に ・をさならに白きページに靑あらし ・重工業白き月光をけぶらする ・白き船月の海ゆき居ずなりぬ ・詩書さぶく經濟の書と肩を組め…
古き市街 瀧口武士 曇日肉屋から腺病質の少年が出て來る 斜陽裏門に梨が咲いてゐる癈屋の庭から籠を持つた婦が現れる。 弦月癈園の向ふに春がある二階で少年が新聞を讀んでゐる。 春闇瓦の上に熟んでゐる星新樹の河畔で天然痘が猖獗してゐた。 『新天地』(新…
航海 瀧口武士 夜おそく、船長室の窓をあけて、彼らは小さな會話を始める 秋 Cabinの窓に秋が來た河岸にある舟舟舟あの帆柱をかぞへてごらん──猫が居るから 高臺 三月の高臺は鶯曇りである坂になつた段々の街で午前の時計が鳴り合つてゐる遠い市街に電話をか…
母 吉田一穂 あゝ麗はしい距離(デスタンス)常に遠のいてゆく風景……… 悲しみの彼方、母への搜り打つ夜半の最弱音(ピアニシモ)。 嵐 森彼女にひそむ無言。夜を行く裸形の群れ彼等は踊る。魚愚かなる野の祭り。 自像 黃金と香気の密かな文字を刻む深夜の薔薇背…
軍艦茉莉 安西冬衛 一 「茉莉」と讀まれた軍艦が北支那の月の出の碇泊場に今夜も錨を投(い)れている。岩鹽のやうにひつそりと白く。 私は艦長で大尉だった。娉嫖(すらり)とした白皙な麒麟のやうな姿態は、われ乍ら麗はしく婦人のやうに思われた。私は艦長公…
モダニズム詩で冷奴なんですよね。関西風と思った由縁です。 ひややつこ 井上多喜三郎 谿水で沐浴をしてゐた豆腐です 豆腐は中までしろい豆腐は四角ですがこゝろに骨を持ちません 生薑と醤油が彼の人格を僕の舌の上で賞める 『花粉:井上多喜三郎詩集』(内藤…
国会図書館デジタル・コレクション『花粉』の落丁頁にあるはずの「タバコ」を全集版をベースにアップしています。あと2つの詩は、他頁のデジタルコレクションから。 タバコ 井上多喜三郎 風が吹くたびにシヤツポをとるパイプ 風がくわえてゆくその小さなシヤツ…
近江のモダニズム詩人井上多喜三郎の短歌作品です。専門の歌人の作品のみをモダニズム短歌とするなら、番外編かも。 ・馬橇の鈴の匂ひが豐です曠野いつぱい春の雪、雪 ・アツプルが銀のお盆へ綠色の夢を投げてる初夏の宵 ・曇天のくさつた腸をつきさしたマス…