2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

美木行雄 Ⅰ  (モダニズム短歌)

・セロリーの齒(は)の泌む別離(わかれ)といへば、いつまで儚(はかな)い、白い鷗の窓かしら。 ・歐州メールV汽船は、もう十日地圖(とうかちづ)のうへで、税關(ぜいくわん)の旗、夕(ゆうべ)の雲など・・・・・・また自殺だと騒いでゐる。 ・スーヴニール、スー…

早野臺氣(二郎)『海への會話』Ⅰ (モダニズム短歌)

・夏なれば朝の砂濱にましかくにガラスたておく拔けとほりゆけ ・覗きをる日覆(ひおひ)の裂け目へうみのなみの横たひらかなみどりがながる ・KIRA KIRAと硝子かついで泳ぐなるせなかのうみは午后なり波あり ・海にむけ飛ばされおちし日覆ありぱつとひろがる…

加藤克巳『螺旋階段』Ⅱ (モダニズム短歌)

・ハンチングのおとすかげから傾きて海面はわれの周囲となる ・貝殻の旗で装つてしづしづと夜の酒場へぬすびとにゆく ・はすかひに港の氷雨たへまなくぬれ色あをき石ころをける ・鋭心 石なげつける 竹だけの 音とんで來る われのまなこへ・草々にこもる命を…

早崎夏衞『白彩』Ⅲ (モダニズム短歌)

・冬の季節の花の香氣の満つる室(へや)にわが血液の濁(にご)れるを知る ・血液の濁れるを呪ふわれとなりて眞夜(まよ)のひびきをわが胸に聴く ・いまわれは阿呆の果實(このみ)たべあいて木登りあそぶかなしさを知る ・まつしろにひかる疾風にとびのつて子とあ…

早崎夏衞『白彩』Ⅱ (モダニズム短歌)

・意識さへカメラにくれしたまゆらは空に樹氷のきらめきぞあり ・白薔薇のなかにわれあり霜に霑(ぬ)るる軟地(やはら)をふみて散歩しければ・華やかに咲く飾燈のひかりうけ酒のみつぎてきはまりもなし ・壁のすそにうづくまりゐる少女なり手をさしのべればま…

前川佐美雄『植物祭』Ⅱ (モダニズム短歌)

・ヴランダに地圖をひろげてねむりゐぬコンゴの國はすずしさうなり ・美しいむすめのやうな帯しめてしとやかにをれば我やいかにあらむ ・風船玉をたくさん腹にのんだやうで身體のかるい五月の旅なり ・あを草のやまを眺めてをりければ山に目玉をあけてみたく…

前川佐美雄『植物祭』Ⅰ (モダニズム短歌)

・春の夜のしづかに更けてわれのゆく道濡れてあれば虔(つつし)みぞする ・手の上に手をかさねてもかなしみはつひには拾ひあぐべくもなし・おもひでは白のシーツの上にある貝殻のやうには鳴り出でぬなり ・床(とこ)の間(ま)に祭られてあるわが首をうつつなら…

加藤克巳『螺旋階段』Ⅰ (モダニズム短歌)

・のばす手にからまる白い雨のおと北むきの心午(ひる)を眩みぬ ・うすじろいあさの思念になにをみし机の上にめくられてあはれ ・書籍のかさなりくぐるむらさきの烟(けむり)たゆたふ梅雨の重たさ ・暗い雨するりぬけて蛇の背のひかりかきくれ雨のひびかひ ・…