中村節子 (モダニズム俳句)

 

旧号中村節女。藤木清子や三橋鷹女のライバル的存在だったときもあるらしい。句を見つけるのが難しい。新しい句が見付かれば差し替えもあり。

 

・朝のサロン壁畫の裸婦に對して待つ

・白い夫人靑年と對きノーストツキング

アネモネの靑きが吸えり煙草の輪

・春の蚊を打てばみどりにつぶれけり

・鶏は頭であるき大カンナ

・ゴムの木にはるけき想ひだんろ燃ゆ

・春の夢夢みし人もみしやらん

・橫を向く肩なめらかに夏の海

・海たひらか汗ふく腕に顎をのせ

・玫瑰咲けり水着の女とロシア犬

・燒けし子等足うら白く泳ぎつれ

・子鰈は平らかに泳ぎ日矢の中

・岬かすめり双蝶みだれなく海を

・海と暮れし一日白雲なくなりぬ

・雜踏にわが顔をおき春愁なり

・婚約者とほし一瞥の日の鮮しく

・腹這へば五月の海が眼にあふる

・火蛾とんで玻璃戸の月のゆがみけり

・香たいて梅雨の夜なればけはひせり

・つゆ草の紫野めづる浴衣かな

・群竹の音は風もつ星今宵

・身をつゝむ日のきびしさよ土用波

・星とんで水平線の闇にほふ

・樹林いで日傘ひらけば尺取が

・舌たるゝ犬の親子にカンナ燃え

・旅客機が白雲を衝き海を北へ

・門川は蝗飛ばしめ芹咲けり

・隠沼夜蛙鳴けり街は盡く

・眞夜覺めたり蚊帳の月光に沈みゐる

・蚊帳の月光枕邊の本濡れし色に

・蚊帳の月光活字は黑く讀むに耐ゆ

・苔ふかし蜥蜴の空に餌ありぬ

・蜥蜴みる窗に黑蝶低く來たり

・白雪にまろび碧空あるはさみし

・暖房や人を憎みしこともとほき

・ともに踏む黃葉の道に浪ひゞき

・化粧して晴れしこころに入り來しひと

・春雷やイチゴミルクを少年と

・風やさし圓柱により人待てば

・少年工泳げり水着を着たる無し

・セロをきくむらさきこゆき秋の人

 

銃後俳句から

 

・稲妻す湖底に屍相寄れり

・化粧するは愉し戦の最中(さなか)なれど

 

 

※玫瑰(まいかい)=ハマナス

 

モダニズム俳句 目次

 

 

すずのみぐさ女 (モダニズム俳句)

 

田中みぐさ女→すずのみぐさ女→関口みぐさ女と号を3度も変えているので句が探しにくい。今後新しい句が見付かれば句の差し替えもありか。
新興俳句の中でもモダニズム俳句と呼ばれるのは一般的に昭和10年前後の句に多いようだ。「白」「薔薇」はモダニズム語彙。


・扉に立てるガルソン靑き春服を

・吾子の服しろければ白き薔薇を繍ふ

・春雪の降れば吸はるゝ砂丘かな

・春曉の地震(なゐ)は響らぐ玻璃の水

・春愁やピヂヤマの胸の朱(あけ)の紐

・春愁のかゝへいだせる筑紫筝

・春曉の素きもめんの肌じゆばん

・泣き呆けの腕のしびれ白薔薇

・髮洗ひ今日の安さを愉しめり

さみだれや句ごころありて强からず

・若楓溢れる水は飮めるみづ

・若葉海眞天の日に蝶飛べる

・白きものましろになれと洗濯す

・蟲干や少しひもじく衣たたむ

・萩しろく立ちいづるとき日向あめ

・秋の蚊にさゝれてみたる腕かな

・黃おしろい秋の貌をばつくるなる

・岐れ路のひとのおもひに咲く野菊

・秋さびの思慕もち酒を暖むる

・繕ひし足袋はくことの親しさは

・枯草に狆はくさりのねのひきぬ

・雪晴の視野が昏むと小手かざす

・冬の夜や足をのばしてねてもみる

・さかんなる水勢に菜を打たせつる

・菜を漬けて氣易きおもひありにけり

・ゆでしものまさに冷えて水にありぬ

・壁は黃にカロリー表は繪を添ふる

・しづごころ白磁の皿を拭きかさね

・秋立つ日簾きりりと捲きあぐる

・湯に浸り嬰児の臍窩華のごと

・豆腐やがたそがれの水あけてゆく

・わが旅の黒手袋のゆびぞ透き

 

銃後俳句から

・我家の柿をたうべて人征 きぬ

・ばんざいばんの底にゐて思ふ

・人征きし部屋の燈を消し步く

・人征きしあとの畳に坐りつる

 

 

 


モダニズム俳句 目次

 

 

喜多青子 (モダニズム俳句)

 

 

・木枯やその風音を秘めし湖

・さんらんと陽は秋空を磨くかな

・春愁のふと聽き入りし歌時計

・蟲の夜のバネ人形の音かなし

・タイプ打つ七階の窓秋日和

・除夜の座に時計のたるむ音ありぬ

・ジヤズいよよはなやかにして年は行く

・本箱にかくし酒あり冬ごもり

・フリージヤのかぼそき莖のふるへがち

・犬が追ふ球の行方に草靑む

・クローバに一人が坐りみな坐る

・いちときに時計鳴りそむ春の晝         (時計店)

・昇降機みな春泥の靴穿ける

メーデー歌ランチに移りつゝうたふ

・籐椅子の夜もマロニエの葉蔭なる

・籐卓やシネマ雜誌と灰皿と

・籐卓や女とかこむ西洋將棋(チエス)を置く

・籐椅子の夜もマロニエの葉蔭なる

・砂日傘夜は夜でギターなど彈ける

・砂日傘異國をとめと其の一家

・噴水の高音となりし徑へ出づ

・噴水の水な底にある魚の國

・灰皿に嚙み捨つるガム夏を病む

・コスモスに給水タンク影を伸ぶ

・いわし雲少女が拭ける窓にうつる

・木柵(さく)のなか貨車の眞闇に虫鳴けり

・長き夜のシネマの闇に君とゐる

・月あげて巨椋の蓮はみな枯れぬ

・ある階の菊見て過ぎぬ昇降機

・すさまじき夜業の音の室に入る

・巨き船かゝりて港まつり來ぬ

ラグビーの脚が大きく驅けりくる

・紅き髪(け)のみだれてラガーたゝかへる

・汽罐車の來てゐる冬の埠頭かな

・揚がりゆく錨は寒き潮こぼす

・水夫みなパイプを嚙めり日向ぼこ

・移民船出てゆく冬の港かな

・スケートの異國をとめの背は高く

・スケートのたくみなる身をそらしつゝ

・春晝の泊船空をけぶらする

・春潮にかゝれる巨船(ふね)のゆるぎなき

・をとめらは春の港を見飽かなく

・鞦韆のこだまは樹々にこもりたり

・鞦韆のつかれ來し眼に虛空あり

・春雷や靴音ひくゝ階をつたふ

・きざはしのしづかなるときかぎろへる

・瀧壺はひそかに靑き夜を誘ふ

・自動車(くるま)吊る太き鎻に夏日耀る        (自動車工作所)

・薔薇の卓かひなの白く倚る夫人 

・夜の薔薇にシガーのけむりさはり消ゆ

・噴水や園生はいたく夜をふかむ

・噴水の夜目にもしるき穗となんぬ

ソーダ翡翠のあをき手が添へる

・ヨツト舁きゆけり日燒の肩たかく

・ヨツト驅るわかものの唄波にのり

・椅子に來て水着つめたく茶を喫める

・星涼し鐵骨くらく夜を聳ちぬ

・厦暑し起重機よもにはしる音

・西瓜食むいとま鑛爐の火夫にあり

・汗の顏熔鋼(ゆ)を檢(み)る眼鏡のみ靑く

・珈琲煮る瓦斯のひゞけり虫の夜の

・扉のひまに夜の颱風の街を見き

・地下步廊ひそかに街の蟬きこゆ

・地下步廊夜の洋服(ふく)しろくひとゆけり

・地下步廊出でて夏樹のみどり濃き

・秋寒し遂道とはの闇を垂れ

・汽車が來てうちふるふ闇冷かに

・汽車の噴く入庫のけむり鶏頭に

・船欄に照る月なれば人あゆむ

・この月夜船は泊つべき燈をひとつ

・街の角白堊そびえて冬に入る

・秋炎の空が蒼くて塔ありぬ

・金堂の丹は古りにつゝ散る紅葉

秋天の遠くへ電車駛り去る

・紅茶おく音がさびしく暖爐冷ゆ

・凍雲と架船と窓をはなれざる

・いたゞきに群れて靑きはパゝヤの實

・温室に充つあまき香に乙女來ぬ

・温室に充つ色彩われを繊くせる

・ゴムの葉の靑きはいはず温室あゆむ

・赤き花挿してリフトはやすみなく

・温室咲きの色彩白き卓にあふれ

・麥を踏む父のすがたの古びたり

・群集のながれに在りて憂き春ぞ

・ビルの稜(かど)かさなり氣球かすみたる

・瞑ればこがらし窓に鋭かり

・温室の花部屋あたゝめし夜を匂ふ

・わびしさは梅さへ咲くにわが病める

・おぼろ夜の街へ空氣のごとく出る

・春愁のわれ海底の魚とねむる

・枯芝に露人は老いてパン賣れり

・日向ぼこパン賣りいまも白露戀へり

・春日向ひとり「改造」を秘し讀める

・春晝の銀貨音ありカルトン

・うれひなきこゝろに春の海はある

・陰多き螺旋階段春ふかし

・遠ざかるわれ鏡底に小さくなる

・ベッドの燈ほろびて春の星燦と

・夕燕娼婦は窓にことばなく

・夢靑し蝶肋間にひそみゐき

・夢靑し肋骨に蝶ひらひらす

・腦髓に驟雨ひゞける銀の夢

・蝶のごとく瞼の奥を墜つる葉よ

・吹かれ來て草に沈みぬ秋の蝶

・叡智の書漂白の夢にくづれくる

・天才の漂白の夢書を焚けり

・書肆に繰る文藝の書の白き夏

・夏ゆうべ岸壁の船白く暮れ

・園暮れてひとゝき白し雪柳

・おぼろ夜の街へ空気のごとく出る

・ベッドの燈ほろびて春の星燦と

・死顔のためし涙よ梅雨の燈に

 

 

 

 

 

 

モダニズム俳句 目次

 

 

孤独 丘英二(張良典) (詩ランダム)

 

孤獨

                                     丘英二

憶ひ出の小夜曲をひきひき孤獨は訪れる
            x
示指が藥指より長い不思議な別れた戀人の秘密も感觸も今は油蟲に喰ひつくされた反古
            x
弦の切れた樂器のやうだとけなしても孤獨は何かしら親しみ深い表情で花のない花瓶に倚りかゝつて一夜中私を笑はせない
            x
禍福の轉輪を思ふてしんみりと床につくと孤獨は私の心を切り拔いて消える

 

 

 

1935.4.22
「臺灣文藝」第2巻第6号(昭和10年(1935年)6月)
臺灣文藝聯盟編輯 東方文化書局刊 復刻本より

 

 

 

詩ランダム

郷愁の冬 丘英二(張良典) (詩ランダム)

 

鄕愁の冬

                                                丘英二

蟻の巢くつて皮のはげかかつた枯木の枝の草庵に病痾を橫たへた老人の溜息に似た震慄の滾々と流れる哀情を溢らして奏で續ける愁絕な葬禮曲をきく僕は敗殘の身に託し處を求めて疲勞と辛苦に咽ぶ流浪者の追想と絕望との人生のパイプをくゆらしてめつきり痩せて出た月を見る鄕愁の酩酊者。

 

 

1935.1.30
「臺灣文藝」第2巻第4号(昭和10年(1935年)4月)
臺灣文藝聯盟編輯 東方文化書局刊 復刻本より

 

詩ランダム

秋雨 丘英二(張良典) (詩ランダム)

 

秋雨

                                      丘英二

雨!雨!雨!
無限の愛と極地の幸福とを私は夜更けに考へて見る。
秋風、秋雨それこそ哀愁深い鄕愁の嘆きだ。
固い松の葉を打つ雨は私の冷たい意志を叩くやうにそして故鄕を解纜した白帆に頽廢のエレジイをしめらせる。
私の情熱は過ぎた幻を追ひ又失望して歸つてくる。逝つた幻想の華麗な花片は雨を思ふ存分吸つてゐる。
あゝ 秋!
私は限りない寂しさを見つける。それは遠い灯をあてに、もがき苦しんでゐる自分の像ではないか。
默つて耳をそばだてよ。
秋雨はやさしく泣きごとをかきたてゝゐるぞ!

 

 

1934.9.9
「臺灣文藝」第2巻第2号(昭和10年(1935年)2月)
臺灣文藝聯盟編輯 東方文化書局刊 復刻本より


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恋愛詩 利野蒼(李張瑞) (詩ランダム

 

戀愛詩

                                          利野蒼

秋の部屋にその人の横顔がある。
窓がある。重さうなカアテン。
影がある。影が少し動いてゐる。
俯向いた眸差。
美しい手がセエターを編んでゐる

花園はかたく閉ざされてゐる。
誰れのためでもない。誰れのためでもない。
四阿屋には誰れも居ない。優しい風の忍び足。
戀愛の神─まだ誰れも來てゐない

その人の姿勢。ボッブの麗はしい運動がそこにある。
棗色の長衫。その人の最も女らしい部分。
あゝ神々は汝の罪を清め給はず。

洋燈の影に心もとなき燈心のむせび泣く夜半。
凡べてのものが、闇から立ち上るその人の震へる聲のやうに、その人の病める胸のやうに

 

 

※四阿屋(あずまや)  棗(なつめ)   長衫(ちょうさん)

「台南新報」1934年11月12日
『日曜日式散歩者』(行人文化実験室 2016年9月)より

 

 

利野蒼 或ル朝

利野蒼 白き空間

利野蒼 セエター

利野蒼 テールームの感情

利野蒼 風景ノ墓石

利野蒼 古びた庭園

利野蒼 迷路

利野蒼 臨終

 

 

水蔭萍 雄雞と魚 台湾 風車詩社
林修二 喫茶店にて 台湾 風車詩社
丘英二 星のない夜 台湾 風車詩社
戸田房子 遠い国 台湾 風車詩社

 

 


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