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小玉朝子『黄薔薇』Ⅱ (モダニズム短歌)


・くらき空に海蛇(ヒドラ)うねれりひとりごゝろ清しみて窓をとざしけるかも

・掌(て)をあはせ千萬年の星々の地に下りるさまをみつめつゝ居り 

・行きずりの人のふりむく目を追ひて音もなき街の花火を見たり

・火花ひらき散りて消えゆく瞬間の眸(め)のさびしさは眸(め)を迷はしむ 

・生きものゝみな亡びたる野に殘りひそかにもわが花つくりする 

・華やかにひとかたまりの薔薇をおき薔薇に見らるゝ樂しさに居り

・野うばらの手を刺す針にさゝれては人心地遠い泪ながせり

・情熱をこはしたひとに六月の花束を送る煙草もそへて 

・街角で花束賣るはわれならむ傷つきやすき皮膚の色見る 

・星ばかり散らばつてゐた大空にけさ青々と撫でられてゐる 

・ぶらんこはまつさをにゆれゆられてるこどもの髪が日にかゞやけり 

・遠き日のさいはひばかりおもひ居りこの深き空はわれを泣かしむ

・白き熊空のはたてを横切りたりいきれに立ちて吹きおりる風 

・廣告の風船玉のつなを引きふるへて居りぬむなしごゝろの 

・輪を描きて鳶舞ふ空の静寂(しゞま)ふかく日のありどころ朱ににじめり 

・風船が文字とばしゐる晝さがりちまたをゆるく自動車が行く 

・何とかの頬紅といふ異國品飾窓(まど)にならんでもう夏もなき 

・窓べりの鏡のなかにこちら向き笑はぬ顔のわれが歩めり 

・赤き花になにやらなごむこゝろありモナミの窓は空をうつさず 

・眞白足袋うすくよごれし悲しみをシヨコラの湯氣にうすくかくして 

・借りものゝ氣持でわれの歩む町見知らぬ人の顔ばかり來る 

・歸らうと早く云ひてよ人込みのにほひはわれをみなし兒にする 

・わが室に歸り來てくづす居ずまひに匂ながれて花束があり

・灯をよせてしみじみわれと見對へり鏡のわれは貧しき眉せる 

・窓に凝(こ)る息吹きしづかにうすれ行き目ばかりのわが外(と)にとけて見ゆ 

・睫毛ながき死顔なりきうつしみのつかれのはての美しさなりき 

・春死にし美しきひとの叡智の眸(め)発光體となりて散りたり

・世の中を死にしひとゆゑよりそへば霧のにほひがつめたく立てり 

・春日なた時計のねぢを逆にまはしさてひそやかにまみつぶり居り


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津軽照子『秋・現実』Ⅱ (モダニズム短歌)

・まどに赤い花さいて
芯に刺客の眼をひそめる   〈月曜〉

・しろい女體の しろい猫の媚
カンヷスもしろいままで   〈火曜〉

・夕やけ鏡まで染めて
オペラ開場の時間が迫る    〈金曜〉

・涅槃の繪のけだものか 父の死床
最後といふにただ泣いてゐた

・あをぐろい星の夜空がかあてんの
このすぐうらに忘られてゐた

・ちよこれえとおもひでにして にがみあり
むかふ渚に灯が見えそめる

・空にたくさん雲があり 夜ふけの
木犀の庭にまどとざす 

・木犀のにほひ强すぎて
憑かれた眼はやみをひとすぢにみる

・庭にくろい影がゐて はたり閉ぢる扉(と)の
おほきなゆらぎわがかげとなる

・まどによりむなし心の眼をすぎる
月夜の猫はよぶ名もなく

・あをあを月の光りの散らばりに
しろい猫ゐてくぐりあるく

・秋はれて窓ははるかに空のあを
蘭の花心にひそみにほふ 

・赤とんぼちらばり空がながれくる
しろい手のひらそろへてうける

・をさなくて磯の小石にゐる貝の
無雜作にとれぬ力がある 

・波は搖籃のゆれのしづけさあつまり棲む
をさなき海のこれら生きもの

・うすぐもに星ちりばめて海の空
いかにかすかにわれ砂に臥す

・夜の磯なきだしさうな魂に
ふいと時計がきざみこむおと

・闇ぬけてほそぼそときた崖みちの
したは渚のほのあかり波 

・流星がすいと消えた磯山の
くろいうしろにひきつけられる 

・淀ふかみ靑底ひえて横たはり
ねむりつづける魚族となる

・淵ぞこのしづかな水のひえにゐて
魚の行儀をつひにみならふ

・ひざのうへかるがる小猫ねむりゐて
そのまま猫のすがたがある



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津軽照子『秋・現実』Ⅰ (モダニズム短歌)

・ひるの月かげ 嫁(ゆ)く人の
見られねばならぬかほを粧へ 

・かけすすりぬけた林の隙きま
しろいあかりの おもひでを見た

・茨の實いかに色づいても枯野の
孤獨(ひとり)のつみが ゆるされぬか

・いつぴきの栗鼠がすむ枯野原
 地軸さわさわしら雲をくり

・郵便配達夫(ゆうびんや)のうしろを霧が追つてゆく
記憶はひらかず

・沖へカメラむけて虹のいろをかぞへる少女(をとめ)ら
ひらひら波がもつれる

・砂にひろふ貝殻 二つあへば
虹のかげをいれやうとおもふ 

・飛行機 青波の底へとばしたい と少年は念ずる
ゆふぞらのよごれ 

・きいろい鳥射おとされてガチヤンとなる
こんなおとについえて憂欝はさびしい

・ききと波に囀る水着の少女(をとめ)ら 疲れて
射的店に廻轉する小鳥ら

・木はみどりのふかれふかれて風ぞら
ひとすぢのながれをもとめる

・日ぐれる 堪へてゐる窓に
梧桐(あをぎり)のしげりの底からの暗示

・雨の窓 桃の枝しめこんで 本よめば
頁にうつくしい陽かげあり

・アトリエの女 花瓣(はなびら)のやうに臥(ね)て
ばらの繪を描かうとおもふ

・人がいつてしまつた あと一面の
眞青(まつさを)のむぎばたけ 

・しがれつと灯の一點にもつれかげろふ
干潟の 人とゐられる 

・潟にこもるしろい貝殻ら
あこがれは 沖のしらほとなり 

・ふなべりに そこにゆれてるまつくろの山
星ぞらのスカイラインたどる 

・人ごゑばかりのはしけにしやがんで
ゆれる ゆれる 星いつぱいのそら



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小笠原文夫『交響』Ⅰ (モダニズム短歌)

・並びゆく少女がともの足揃ひ一様になびくすかあとの襞 

・嬬(つま)さびて今はあらめとおもひつつ少女すがたは眼に浮ぶもの  
          

・いまにして忘れがたかるひとのありわすれてしまへと首うちふりつ 

・ギリシヤ型の顔を少女が拭きたればへリオトロオプが清しく香へり

・ボイルのカラアすずしく搖れなびく少女の衿はなめらに細き 

・カツプルで歩いてをれど妻でなし愛人でなしけれどたのしも

・外人の子供とはなす日本語はなにか矛盾におもはるるなり 

・洋館の窓があけられ朝はやしピジヤマの少女が挨拶をせり 

・わが肩にくびもたせかけし異人むすめ搖るる横毛はふさふさとせり 

・そつと來ていきなり肩をたたくほどの浮きたる心持てとおもふに 

・つめたさにすぐる少女の沈黙をゆりうごかせどものいはぬかな 

・はなやかに立ちふるまはぬひとなればわれも黙りて一緒にゐるなり

・閉ぢし眼のまつ毛の長き子を抱くこの瞬間のこころあやしき 

・後れ毛がすこし亂れてなめらなる耳のうしろは綺麗すぎるなり

・しみじみと見れば少女のやはら耳お菓子のごとくたべて了ひたし 

・うつくしきひと等の話は眼を閉ぢてにほひと共にきくべかりけり

・ふわふわと天空をわれは飛びゆきて美貌の少女につき墮とされぬ 

・灰ざらのけむりのなびき見つめつつうつけ心をそのままにをり

・ひとりゐておもふはさみし朝顔のよごれし花を摘みとりながら 


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石川信雄『シネマ』Ⅰ (モダニズム短歌)

・春庭(はるには)は白や黄の花のまつさかりわが家(いへ)はもはやうしろに見えぬ 

・白鳥の子をかばふため家鴨等に棒ふりあげるこどもでありき 

白薔薇(しろばら)のをとめとわれはあを空にきえ去る苑(その)の徑(みち)の上なり 

・すみれさへ摘(つ)まうとしなかつたきよらかなかの友よここに死にのたれゐる

・われの眼のうしろに燃ゆるあをい火よ誰知るものもなく明日(あす)となる

・駱駝等のむれからとほく砂原によるの天使らと輪踊りをする    

・山の手の循環線を春のころわれもいちどは乗りまはし見き 

・スウイイト・ピイの頰をした少女(をとめ)のそばに乗り春の電車は空はしらせる  

・壁にかけた鏡にうつるわが室(へや)に六年ほどは見とれてすぎぬ 

・窓のそとに木や空や屋根のほんとうにあることがふと恐ろしくなる

・われつひに惡魔となつてケルビムの少女も海にかどはかし去る 

・羊等のなめ合つてゐる森のなか狼のやうにはしりぬけ來る 

・オレンヂやアツプル・パイを食べさせるかの苦しみよここに見おくる 

・奈落へとわれの落ちゆくを手つだひしかの人よ今も地獄にすめる

・地下道にあふれる花等はればれとながれゆく先のみな見えてあれ 

・今日われはまはだかで電車にのりてゐき誰知るものもなく降(お)りて來ぬ 

  
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斎藤史『魚歌』Ⅰ (モダニズム短歌)

・白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう 

・時劫(とき)さへも人を忘れる世なれどもわれは街街に花まいてゆく

・くろんぼのあの友達も春となり掌(て)を桃色にみがいてかざす 

・アクロバテイクの踊り子たちは水の中で白い蛭になる夢ばかり見き 

・飾られるシヨウ・ウインドウの花花はどうせ消えちやうパステルで描く 

・みどりの斑點がかうも滲(にじ)んで來るもはや春だと云はねばならぬ

・世界地圖の上に置きたる静脈の手われわれはみな黄色人種 

・フランスの租界は庭もかいだんも窓も小部屋もあんずのさかり 

・敷石道は春のはなびらでもういつぱいパイプオルガンが聞えるそうな 

・はとばまであんずの花が散つて來て船といふ船は白く塗られぬ 

・春はまことにはればれしくて四つ辻のお巡査(まはり)さんも笛をひびかす 

・散つて散つてとめどない杏の花の道にまぎれこまうとダンテルを着る

・鳩笛をそれきり聞かぬ異人館の中庭は黄なたんぽぽの花 

・出帆の笛はあんまりかなしくて山の手街の窓は閉ぢてある

・びらびらの花簪のわが母にずつと前の春まちで出逢ひき 

・てのひらをかんざしのやうにかざす時マダム・バタフライの歌がきこえる


    
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早崎夏衛『白彩』Ⅰ (モダニズム短歌)

・まなぶたをうらがへされて待避線路に億兆の夢をわれは追ひゐし 

・みがまへてきびしきこころひねもすをみじんに刻みつひに氣死する  

・なにか魂(たま)をついばむものを怖れながらまちうける陷穽をおもふはたのし
 
・黒蝶の翅(つばさ)を透(す)かしけふもまたからまる不安日南ぼこしてゐる  

・追ひつくすきはまりもない夢をもちかくてかなしみを塗りつぶすべき 

・足もとの薫花(くんくわ)をみつめさつぱりとうしなひがたいくるしみをまもる
 
・卵殻(らんかく)を彩(いろど)り耽(ふ)けるにこにことフランス少女のうたをききつつ

・淡白(あはじろ)いあかりのもとのカレドニヤの花であるきみに觸れようとせず

・傾ける時間を逸(そ)らし考へることがらにふれるは黄薔薇のみなり 

・Esthoniaの子供がわすれたエストニアの旗が雪中(せつちゆう)でわれをとらへぬ 

・花蜜(ネクタア)に脣(くち)ふることもおそらくはなき獨木刳舟(まるきぶね)でひとのたまはふる 

・春晝(しゆんちゆう)を瓣(びら)にほはせるシネラリヤわが心波(しんぱ)さへ緋(あけ)を映(うつ)しぬ 

・照りつける日に時計店の臘石のやうな柱が光にぬれてゐる 

・碧空(そら)の觀葉植物(コリウス)がはこぶいちまいの通信にいまは生死(いきじに)もかけるわれなり

・飾壁のかげからのぞくつばらかな紅頬(べにほ)は白鬼(はくき)の氣をさらふなり 

・靑葱ヲ踏ミテ子供ガクリクリト目玉ヲムイテワレヲ視テヰシ              (クリクリ上````)                 
    
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