冬の詩  左川ちか  (詩ランダム)

 

冬の詩

           左川ちか

終日
ふみにぢられる落葉のうめくのをきく
人生の午後がさうである如く
すでに消え去つた時刻を吿げる
鐘の音が
ひときれひときれと
樹木の身をけづりとるときのやうに
そしてそこにはもはや時は無いのだから。

 

 


『MADAME BLANCHE』第4号 昭和8年(1933年)1月

 


左川ちか 花咲ける大空に

 


詩ランダム

 

 

花咲ける大空に  左川ちか  (詩ランダム)

 

花咲ける大空に

           左川ちか

それはすべての人の眼である。

白くひびく言葉ではないか。

私は帽子をぬいでそれ等をいれよう。

空と海が無數の花瓣をかくしてゐるやうに。

やがていつの日か靑い魚やばら色の小鳥が私の頭をつき破る。

失つたものは再びかへつてこないだろう。

 

 

※原詩では「花瓣」→「はなびら」の振り仮名あり。

 

 


『MADAME BLANCHE』第6号 昭和8年4月

 

 

 

 左川ちか 冬の詩

 

 

詩ランダム

 

 

言葉  井上多喜三郎  (詩ランダム)

 

言葉

         井上多喜三郎

帽子の中に言葉はなかつた。

帽子もすでに 儀禮を越えた。

僕等のまわりにもえてゐるお天気。

僕等は氣球よりも輕い。

飛翔する
不誠実な言葉の領域から。

 

 


『MADAME BLANCHE』第5号 昭和8年(1933年)2月


井上多喜三郎 時間
井上多喜三郎 綴れない音信
井上多喜三郎 窓

 


詩ランダム

 

 

時間  井上多喜三郎  (詩ランダム)

 

時間

         井上多喜三郎

近よる時間を帽子の中へかくしておいた。


急いでやつてくるあの子。


僕は帽子をとつて 高く打振るのでしたが
帽子の中からは 花粉が麗かにとびだして


僕等をすつかり包むのでした。

 

 

 


『MADAME BLANCHE』第10号 昭和8年(1933年)10月


井上多喜三郎 綴れない音信
井上多喜三郎 窓

 

詩ランダム

 

 

花見酔客  西條成子  (詩ランダム)

 

花見醉客

           西條成子

襲ひ來る寂しさは秋のブドウの味でした
美しく花の咲いた或日に
旅人はその下に甘露の酒をのむのです
夢は幾つもの山や河を越えて
そこに旅人は唄ひ又踊るのでした
そんな夢からさめて旅人は
又もたまらない秋の實を
見出さねばならなかつたのでした。

 

 

 

『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933年)6月


西條成子 青き絵筆に
西條成子 雲
西條成子 独楽
西條成子 再会
西條成子 策取
西條成子 プリズムの夢

 

詩ランダム

 

 

静かな饗宴  澤木隆子  (詩ランダム)

 

靜かな饗宴

            澤木隆子

わたしの明るい罪惡悔ゐなき魚族の沈默スリツパから立ち上る夕ぐれの虹のだんだら


いもうと お前は明暗のレエスを引きしぼる緞帳の紅をゆすぶるここの階段にリユストルをともしてくれる


おまへはわたしの足もとの疲れた花片をたんねんに拾ふ兩腕にかかへる
おまへのもつともらしい眸よアスパラガスの感性よ葡萄色の觸感よ


わたしは一つのパラソルにすがる出て行かうとするおまへに渡すまいとするかあいそうなおまへよこの最後の花冠そそらうとするのであるか

 

 

 

『MADAME BLANCHE』第5号 昭和8年(1933年)2月

 

 

 

澤木隆子 記憶
澤木隆子 心
澤木隆子 春の約束
澤木隆子 額のばら
澤木隆子 雪

 

 

 

詩ランダム

 

 

星の転生  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

 

星の轉生

            高木春夫

窓をあけて星をながめたとき
風は赤ん坊の生毛のやふに、やはらかに
さらさらと流れたではないか
ゆふぐれ、山のなかのひとつの池を眺め
なんといふものさびしい遁世の志を
いだいたことか
その瞬間の頰えみを湛えてゐたことが
いまは遠くすぎさつた夢のやふに
不可思議なものとなつてしまつた


時計を前において心にもない想いごとを
してゐたとき自然の猫なぜ聲に
夢からさめたときのやうに恥づかしい
おもひをしながら、それでも河から
あがつてきたときのやうな爽快な氣持に
つよく胸を摶たれてゐた そふして
七色の虹にもましてうつくしい
朱色の水蒸氣がせいほふの空いちめんに
蔓びこつてゐたではないか
根づよい虛無とのたゝかひ
あかあかとした舞踏の男女の息づかい
豊滿なにん婦の香り、
にぎやかな笑ひと陋劣なかたり
石油のやふに燃えるお酒と男たちの
眞黑な頸すぢ、いやないやな
露西亞風の勞働、
花束と煙草の喫殻とはひきちぎれて
波のやふにあれてゐる


寂しさふな星のまたたきをごらん
ぼんのうの未練に泣いてゐたではないか

 


※「せいほふ」「息づかい」、原詩では傍点。
※「胸を摶たれた」→「胸を搏たれた」か?

 

『GGPG』第2年第1集 大正14年(1925年)1月


高木春夫 虛無主義者の猫・・・
高木春夫 幻想W
高木春夫 ダダの空音
高木春夫 眠り男A氏の發狂行列
高木春夫 水の無い景色

 

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