佐藤登里子  (モダニズム短歌)

 

・街燈の影にしほれるコロニイ 踊子達は花束の手術をうけてゐる

・機械になつた踊子達 笑ひを押しつけられて花束が崩れさう

旅愁の馬が走り去つた 綠のモノロオグ 踊子はナイフの足で滑つてゐた

・海の大きな窓 落下傘が花束になつて浮びあがつてきた

・夢から出てくると 足音を忍ばせて 月はフイルムを寫して見せる

・陸橋は濡れて搖れ いくつものモノクル喪はれ 黄色い海をひろげる

・月光が歩き出した 大きな月見草の傍で 風は搖籃を釣り下げた

・貝殻は海の響が好きになる 草たちのむれは砂丘に沈む

無花果の葉にメロンがかくれる 切り拔きの月は張られたまま

・草花の莖が伸びて 夕暮の廂に碧いレエスが懸けられる

・城塞を過ぎる趾の感激 愉快な弱点となる エルムの鐘も楽しく

・ふもとから 失はれる山 結婚式に瓦斯マスク持ってゆく國に唯一つ白い花

・氷の椅子が一つ 海からもくる 朝のフオークを置く

・坑をのぞく碧い悼しみ エルムの鐘 風は露地にはいつてゆく

 


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PHONO DE CIRQUE 山田一彦 (稲垣足穂の周辺)

 

PHONO DE CIRQUE
          

             山田一
ミユジイクの眼鏡をかけたミユジイクは
サアカスの遠い聲である  ミユジイク
の白い馬はサアカスの遠くなる厚い帽子
白い馬は寫眞のリボンとともに鍔にうす
くなる遠くなる煙の帽子をかむせて居る

 


『衣裳の太陽』NO.2 昭和3年(1928年)12月

 

稲垣足穂の周辺 目次

 

簇劉一郎 Ⅱ   (モダニズム短歌)

 

「私の庭球」

・物質の倫理を・さつと かきみだす、コオトの白い動く 斑點

・プレイヤアが 作りあげては・こわしてゆく、速力の形而上學。これは。

・ひらいた右足に・かかる重點、支へた體(からだ)のひねり バツクストロオク。

・均整された姿態がくづれて 瞬間 ボオルの冷靜。バツクハンド・ストロオク。

・物質の彈道を鋭く表現する 對角線を 白い 呼吸だ。

・速力の彈條を 一瞬 截斷して、ネツト近くのチヨツプ・プレイ。

・均衡がみだれた陣營へ とびこむ・ボオルの 時間の 蒼い 斷面。

・一線へ追ひつめられた二本の線條。陣營の攪亂の上を ロビングの泳行。

・モオシヨンをぬすむ前衛を 網膜に──球(ボオル) と選手(プレイヤア)の 一瞬の靜止。

 

「極東陸上競技選手權大會」

・これは悠々と、これは瀟洒な跳躍、米系ヒリツピン選手 トリビオの2MA 

・吉岡 そら拔いた そらスピードだ 旗だ 靑だ 腕を 脚を ゴールへ飛躍

・ぐさり 世界記錄・記錄線へ 住吉の槍。フオールの旗がふられて

・靑天白日旗 印度三色旗 その原色のあざやかさ、その原色の、强い印象

・肉體と拍手・芝生と白線・國旗と靑空・垣一つ外の失業都市・東京

・この華かさ、この國際競技、この外苑・ここに極東オリムピツクパラダイス

・君ら跳躍にそふ兵士、君ら肉體の運轉者、その野性にひそむエロチシズム

 

「百貨店形態」

・一枚の 貸借對照表(バランスシート)に歸納される このデパートの10階の機構。

・デパートの鐵の機構が 見るまに折りたたまれる 一枚のカードに。

・富は先づ商品の蓄積から。商品の堆積層の間から 事務室の窓。

・營業室のドアのハンドル。曳いても 遠く資本は銀行にゐる。

・ひとつのものが4つに見える鏡の仕懸。その前にみんな立たされてゐる。

・階6←→5 階の段階にゐて、さて、私の貨幣は表情をもたない。

・エレベーターに吐きだされる屋根の上、神社に明朗な資本商標(トレード・マーク)。

 

「感情の斷層」

・人間の親切にまつはる限界性がそんなところにも築かれてあつた

・ほら あなたの親切も そんなところに逃場を作つておいたのだ

・蒼い斷層へ私を押しやつたまんまあなたはそこで手をひくつもり

・何年かまへの おびえた斷層が 新しい裝釘で またやつてきた

・眞實のすぐ てまへまで來てゐながらあなたはそこで目をとづる

・現實からうかびあがつたあなたの考へこそ 全くろまんちすとだ

・あなたを兄弟と呼ぶ繋がりを阻むもの それが經濟組織だといふ

・あなたをさうさせる させずにおかない それへ 刄向へといふ

・ぶつかつてゆく組織のまへ もう足もともない あなたでないか

・もうなにもないところまで押しつめられて それでも尚と いふ

・まきあげられる經濟組織へ まきあげられてゆく 私もあなたも

 

「犬と夜」

・暗闇をわたしが歩いてくると とつぜん とびかかつてきた おまへではないか

・暗闇からわたしめがけて 暗闇のなかからわたしに とびついてきた おまへ

・眼をひからせて 待つてゐたといふ おまへが わたしの 前にあつたといふ

・とびつくと はなれて そのまま 尾をふつてついてくる おまへ お前は犬

・停車塲の灯りだけが まつすぐまへに 三十間道路の ひろがる夜の秋の空氣

・爆音だけが夜の空たかく 見ると靑い飛行機は 靑い星と まぎれてしまつた

・靑い飛行機の光りが 星と星と そのあひだを はしつてゆく 靑い高い空を

・光りだけが見えて 爆音 宙返りだなんて 見えない機體から 光だけみえて

・飛行場立川の照明線が ここの 三階建ての屋根をも斜めに そのまま闇へ

・おそらく 一つの符號にすぎない夜の航空機 夜の鐵路に沿ふて 光の東京へ

 

「ある商會」

・あらしの 世界恐慌のさなかから ここだけとりのこされた といふ貌

・とりのこされた そのかはり もう生氣のないあなたたちの 手の帳簿

・ビルデング3階 螺旋を2つまわつて正面 その商會に遂にきた 休業

・カアテン ドアに鍵 資本はさつと身をひくと そのまま 商會のドア

・ドアの把手が 光つたまんま 新年にも開かぬ 暦だけは商會にも新年

・のぼるときとは ちがつた疲れ、ビルデイングの階段を下る、窓の靑空

・試験の疲れが階段を踏む、階段にビルデイングの靑空が切りとられ 窓

・靑空が小さく區切られる窓。まわる階段の まへに 區切られた 窓

・就職試験のはかない疲れが この螺旋形の 階段をくだる 窓に靑空

 

「風と感情」

・元旦は夜にはいると雨に變り カフエのまへ 空車がぬれてゐる 停止

・戸をとざした新年の街 くらさのまま そのまま 二日へ更けてしまふ

・あるきだす足もとから 夜の風 新年の風 うすぐらいその風であつた

・ひつそりとした街 バス あかるものの一つとなつて ゆられてゐる

・新年の街路を十往復 新年の道路を十二時間 あなたはバスに 働く

 

 


『空間の胴体(トルソ)』より


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CINEMATOGRAPHE BLEU  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

 

CINEMATOGRAPHE BLEU

 

            山田一

雨のふる虛飾的の夕暮に噴水のある泉のレダが白鳥に乗つて居るあの頭をみてごらんなさい・彼女の聲を聞いてごらんなさい・

エレエヌよ・
雨のふらないことと雨のふらないことほど愛することと愛することは違つて居る・
エレエヌよ・

お前は窓の下の影を愛するパラソルをささない金魚である・お前がひとつの釦を間違へたらかならず三番目の釦は合はない・

靑い髪のレダのためのエレエヌは靑い錨の下の厚い帽子をつけたBUSTEとBAGAMIEを企てるために巧みに白粉刷毛で黑と白を間違へさせる・

雨のふる靜かな夜の海をパリスはヴエヌスの林檎をつけた釣竿を垂れ鶯を釣らうとしてモオタアボオトをすべらせる眼鏡をはづした鏡附の部屋で化粧するパリスである・

 

 

 


『衣裳の太陽』NO.2 昭和3年(1928年)12月

 

稲垣足穂の周辺 目次

 

二重の白痴  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

 

二重の白痴
   ou Double Buste

          山田一


エツフエル塔のサロメ無花果を載せた皿を廻して居る
エツフエル塔のヨハネはフオクが無いのでメガフオンを廻して居る

BUSTEの光を浴びた砂漠の聲が土耳古風呂の浴槽にあるテレフオンから聞えてくる・

『汝サロメよ・五月の春は婦人の手袋の裏側に熟睡して居る・速く!汝の皿を惡魔の鼻に示せ・余はエロオドである』

BUSTEの影を浴びた銀行の現金出納係の方からヨハネの聲が遠く聞えてくる・

『ミユウジカルに永遠である春は二重の扉に閉ざゝれた二重の夕暮のたちさるとき永遠に永遠ではない曙とともに永遠のための永遠の音樂をかなでやうとして居る・余はその光でフオクを探さうとして居る・』

エツフエル塔のサロメヨハネは兩手に五拾錢銀貨を握り右手を右手に載せたまま土耳古風呂の中で白い馬上の女奴隷が鼻の右側に涙をおとす蓄音機附の活動寫眞をみて居る・


『衣裳の太陽』NO.2 昭和3年(1928年)12月

 

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山田盈一郎  (モダニズム短歌)

 

昭和初期は、林亞夫とともにエリオット、パウンドの影響下にあったようですが。


・椅子の向ふに傾く海 記憶のシュミーズ 少女はリボンが何故悲しいか

・風は白い廣場で廻らない 蒼褪めた銅像の上に影が降りてくる

・丘を蒙古風のアクセントが越える 少女の素肌が露字新聞の蔭に隠される

・地球儀の中から鳩が翔び昇(あが)る 窓の向ふから少女が手を擧げて挨拶する

・秋 小鳥は透明な心臓を持つ 少女は白い手套を脱いで梢にかける

・黄昏は白い掌のやうに美しい 啣へたパイプの中に沈む家具をみる

・ポートレイトに汽船が印刷される 日曜のハバナ煙草は石炭の匂ひがする

・室内・少女の痩せた肩と椅子が夢みる 街の朽葉は海へおちる

・シャルマンな雄鶏は吠えない ピカピカする海岸線は寢臺の上に續いてゐる

・鳴らないピアノはミルクの海になる 退屈なパイプは終日空を吐いてゐる

・リボンを附ける夕暮 Bon Bon 子供部屋に子供がゐなくなる

・古びた街は街の中にある・花屋の花は花屋の花を美しく飾つてる

・やがて僕の影に影が降りる 羊齒類の眠る午後の雲が樹木の上にとまる

・桃や梨や乾葡萄を収穫する夏は雲やスポンヂや貝殻蟲と比格される

・蜂の巢箱の廻りを自轉車でとばす 快適な氣候(クリマ)のために白いハンカチを吹かせる

・少女は陳列される 鶏などゐる牧場の花色の背景を持つ少女は陳列される

・果樹園の昆蟲は新聞紙のやうに繁殖する手押ポンプの上で一日雲が廻轉する

・一束の燐寸ほどの夕暮 楡の木の下に來る僕は僕の一番近くにゐる

・卵形の競馬場の先は屈折する 蝶とパラソルと雲とパラソルと雲と蝶と間違へる

・鳩は經驗に於いて鳩等にひとしい。それ故に少女の乳房は手袋の如く認識される。

・風と噴水と 陽は遙るか ひかる 樹木(きぎ)をこえる午後

・リンネルの空と錻力の蝶が走る。風は幾度か屋根に当つては曲つた

 

 

平井乙麿編『流線車』(短歌藝術社、昭和9年(1934年))より
※この歌集は、前田夕暮門下の彦根支社の同人達による短歌誌『藝術短歌』の合同歌集。

 

略歴

昭和5年呼子と口笛』に出稿。また同じ時期『短歌月刊』へも投稿していたようである(新短歌との接触)。

『若草』への投稿から前田夕暮と触れ合い、昭和6年夕暮の結社誌『詩歌』へ入社。

昭和7年『詩歌』の準同人となり、同年秋、古川伝三郎を通じ宮崎信義等の『詩歌』の仲間と平井乙麿が主になり『藝術短歌』を発行。

昭和9年『藝術短歌』の同人達との合同歌集『流線車』刊行。間もなくカタカナ書きの作品を『詩歌』に送っても平がなに直されるなど、その他の事情にて『詩歌』より退社。詩誌『椎の木』へ送稿。逗子八郎主宰の『短歌と方法』へ入社。

その後『短歌と方法』を編集しつつ、林亞夫、椎名勇ととも昭和11年『デパアル』創刊。

昭和14年渡満。

戦後は『新短歌』『芸術と自由』同人。

 

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林亞夫  (モダニズム短歌)

 

戦後は林民雄の名で歌を発表している。昭和12年ごろは、山田盈一郎とともに、エリオット、パウンドに惹かれていて、ポエジー派の颯爽たる理論家として知られていたらしい。簇劉一郎の友人の同名の童話作家は彼のことか。

 


・醫學生が兎を買ひにゆく 花粉のなかのサモワル これから睡る

・小犬 パアゴラに干されたままだ 破れ馬車の聲だけする。

・太陽が河を洗つてゐる 惡癖と十字架が多い 島の合圖きいた

・驟雨もある 公使館の花花はすでに古くなつてしまひ 風化です

・鳥を絞めころす 前齒をしろくするために 放埒な時間を流しながら

・毛髪はえばれと結び 祭典であつた ウオツカならば咲けよと合唱する

・ライカ それは淫らな掌をしめす 横目で 少女は灌水浴の準備をする

・洋畫展では派手な儀禮を 花總(はなふさ)あるひはソワレなど 午睡の區域に屬した

・沼澤に近い よごれた樂譜ばかり 少女は兎唇である

・まい日の洋裁に慣れた 華奢な義眼(いれめ)のひと ギタリストは愉しく打つ

・記念館で訣れる 薄倖な走り書き そのまま句點となる

・ヴイナスの像に霽れる 雅宴のあと 祝砲は海へゆくのであつた

・匂つてゐるのは木犀 そして 波止場へ行く犬とこんがらかつてゐる女たち

・小猫すてに行く 道すがらヘア・ピン落ちてゐたし 月の形もおぼえてきた

・吠えてゐる船 水夫長の小指(れこ)の死産 その方角へさかづきを擧げる

・競馬場に凭れるのは月ばかりでない ギタルとホタル 茗荷を祭る風習はすたれた

・靑い枝へチイズは懸る あれは呼吸器といふものだ ヨアケの術語には騙された

・大學の屋根から風が吹く 西瓜畑でプルタアクをよみ穀物のやうな顔をしたのは誰だ

・赤面する右の家屋だ 告知板には濡れたモノクルが光り もつぱら毒舌した

・Q市の叔母は饒舌に脚を早めた 飢饉もヒツトする あれは象皮病の処方だ

・ひかる裝身具をかざし 新たな軍記をしるす
響(とよ)む それは海ばかりではない

・匂へる干戈(かんくわ) そのかずとおなじき碑文をよむ 湖水には雨がそそいだ

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