三橋鷹女  (モダニズム俳句)

 

・すみれ摘むさみしき性を知られけり

・蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫

・手花火のしだれ柳となりて消ぬ

・春の夢みてゐて瞼ぬれにけり

・夏瘦せて嫌ひなものは嫌ひなり

・しづかにしづかに地球はめぐり萩の咲き

・煖爐灼(や)く夫(つま)よタンゴを踊らうか

・髪おほければ春愁の深きかな

・こんとんと秋は夜と日がわれに來る

・冬來るとあたりけだものくさきかな

・みんな夢雪割草が咲いたのね

・女の香のわが香をきいてゐる涅槃(ねはん)

・蜂飛んで日はかなしびの女を搏(う)てる

・天地ふとさかしまにあり秋を病む

・詩に瘦せて二月渚(なぎさ)をゆくはわたし

・しやが咲いてひとづまは憶ふ古き映畫

・きしきしときしきしと秋の玻璃を拭く

・四五本のけいとう燃えてゐる疲れ

・冬來るトワレに水の白く湧き

・めんどりよりをんどりかなしちるさくら

・この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉

・短日のギターに縋(すが)りギター彈

・沈丁(ぢんちやう)やをんなにはある憂鬱日

・夏深く我れは火星を戀ふをんな

・日の穹(そら)へ羽蟻あとよりあとより飛ぶ

・カンナ秋體溫あつく吾ぞ生くる

・秋日射し骨の髄まで射しとほし

・こころ火の國にあそべる粉雪かな

・煖爐燃え牡丹雪とはかかるもの

・おもふことみなましぐらに二月來ぬ

・靑葉影あをきピアノを打ち鳴らし

・罌粟(けし)散つてこころに抱くは鳥獸

・かなしきはギヤマンの瞳(め)の毛皮の瞳

・こころ燃ゆ夕映燃ゆる束の間は

 

 

 

 

 

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