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斎藤史『魚歌』Ⅱ (モダニズム短歌)


・山の手町がさくらの花に霞む日にわが旅行切符切られたるなれ 

・野生仙人掌(さぼてん)や龍舌蘭の葉に刺されゆく白い不運はしあはせらしく 

・南佛にミモザの花が咲き出せば黄のスカーフをわれも取り出す 

・赤白の道化の服もしをれはて春はもうすでに舞台裏なり 

・空の風船の影を掌(て)の上にのせながら走り行きつつ行方(ゆくへ)も知らぬ 

・太陽神(ジユピター)がとはうもない節(ふし)の鼻歌をうたひ出すともう春であつた

・オレンヂやアツプル・パイを食べさせるかの苦しみよここに見おくる 

・奈落へとわれの落ちゆくを手つだひしかの人よ今も地獄にすめる 

・手風琴ひきが帽子を廻すひるさがり巷(ちまた)の雲は白く疲れぬ 

・消える華火今日もどこかに上げられて人形は窓に首をかしげる 

・街角の道しるべ圖を読んで居ればオルゴールの歌聞え日の昏れ 

・切符とか着物とか人の髪とかに觸れて來た掌(て)よ今さし合す

・春風に窓あけようと思ひ居るたのしさなれば窓は閉ぢてある 

・岡に來て両腕に白い帆を張れば風はさかんな海賊のうた  

・花虻はさわぎ居るとも夕昏れはいつかさりげなく來てしまふらし 

・いろどりとなる面影もなき春なれば列車のやうに夜がきしみ來る

・或る瞬間(とき)にひろげられたるわが指の五つの方向(むき)に色を失ふ 

・放射路のどれもが集まる廣場なればまんなかに噴水はまるくひらきぬ  

・いきどほり深きにありてよむ歌の平和(やはらぎ)の歌は鳩と共に翔(と)べ 

・密獵に出てゆく船が華やかな旗さへ立てる夜となりにけり

・いのちより光りて出づるうたもなしコルトの胴をみがけりわれは 

・野に捨てた黒い手袋も起きあがり指指に黄な花咲かせだす 

・なまめかしくきよらかな花を瓶にさし胸つまらせて暮らす日もあり 

・窓べには仙人掌(さぼてん)の花日覆(ひおほひ)のだんだら縞やわが夏帽子 


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