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斎藤史『魚歌』Ⅲ (モダニズム短歌)


・夜毎(よるごと)に月きらびやかにありしかば唄をうたひてやがて忘れぬ 

・たそがれの鼻唄よりも薔薇よりも惡事やさしく身に華やぎぬ

・夕霧は捲毛(カール)のやうにほぐれ來てえにしだの藪も馬もかなはぬ 

・定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジヨルカの花

・あかつきのなぎさぬかりて落ち沈みわがかかりたる神神の罠 

・植物は刺をかざせり神神は罠あそびせりわれは素足に

・遠い春湖(うみ)に沈みしみづからに祭りの笛を吹いて逢ひにゆく 

・しなやかな若いけものを馭しゆけり蹄(ひづめ)にかかり花は散るもの

・ひたすらに水底に沈むわれなればあたたかき掌(て)など持ちては居らぬ 

黄道光西にあがれば身にひそむ野生は苦く銅羅うちたたく

・羊齒の林に友ら倒れて幾世經ぬ視界を覆ふしだの葉の色 

・春を斷(き)る白い彈道に飛び乗つて手など振つたがつひにかへらぬ 

・濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けか知らぬ 

・暴力のかくうつくしき世に住みてひねもすうたふわが子守うた

・あかつきのどよみに答へ嘯(うそぶ)きし天(あめ)のけものら須臾にして消ゆ 

・額(ぬか)の眞中(まなか)に彈丸(たま)をうけたるおもかげの立居に憑きて夏のおどろや

・照り充てる眞日につらぬく道ありてためらはず樹樹も枯れしと思へ 

・いのち斷たるるおのれは云はずことづては虹よりも彩(あや)にやさしかりにき

・まなこさへかすみて云ひしひとことも風に逆らへば聞えざりけむ 

・ほろびたるわがうつそ身をおもふ時くらやみ遠くながれの音す 

・わが頭蓋の罅(ひび)を流るる水がありすでに湖底に寝ねて久しき 

・はつはつと上ぐる額と云はば云へ地を這ひゆきて必ず視むもの

・内海を出でてゆくとき花を投げる手帖もなげるはや流れゆけ 

・手を振つてあの人もこの人もゆくものか我に追ひつけぬ黄なる軍列




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