2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

鈴木杏村  (モダニズム短歌)

『冬の琴:鈴木杏村遺歌集』(昭和35年)より。本来は、筏井嘉一編集『エスプリ』 を閲覧できれば良かったのですが、唯一所在の分かっている図書館が大学または研究機関に属している者にしか閲覧を許さないということで断念。戦前、白秋門下では、兄弟子達が歌…

育つ夢  荘原照子  (詩ランダム)

育つ夢 莊原照子 エリカの髪に頰を寄せて、わたしは白い垣根に別れを告げた。沙丘のその果てに夜の落葉がふるへてゐるとき、あなたのマントはどんなに長く地をはらつて行つたらう。けふわたしの指に唯二つ光つてゐる外米。どこか遠い星の蔭にゐて、ああエリ…

記憶  澤木隆子  (詩ランダム)

記憶 澤木隆子 1目をつぶると顔が見える。それは顔のない顔、輪郭だけの顔、無數の顔 顔 顔、 2顔の中の一つがはつきりと浮び出す、一つの記憶のMAKE UP それは『怖るべき顔』ではない。 私は目を開ける 3子供らよお出で、童話(はなし)をして上げよう、そこ…

急行列車  折戸彫夫  (詩ランダム)

急行列車 折戸彫夫 急行列車は發車した──マグネサイレン (街はスクリーンの中にあるのです)機械座をレールは走つた──ピストンの街 (ラツシユ・アワーは劇場に白薔薇と脚光を撒いてゐました)爆音です。No.3333──U型のカーブがある (アルミニウムの圓筒と白い…

心  澤木隆子  (詩ランダム)

心 澤木隆子 叢には草花が咲き 山の端に月も 痩せてゐる。ふところ手をして歩いてゐるとだんだんと心が自分から離れて行くのであつた。 『Rom』(紅玉堂 1931)より 澤木隆子 記憶澤木隆子 額のばら澤木隆子 雪 詩ランダム

女教  広江ミチ子  (詩ランダム)

女敎 廣江ミチ子 1 クロモゾオメン 1 時計 2 時計 3 紙製飛行便 ガチヤガチヤつと 印刷して いツ氣に 車體を發光せよ 2 歴 史 巨大な單色を透過する 半開の世紀版 ふりちぎつて しづかな正視をしつづけよ ダイアルをまはして 交易の 印を截る 3 背 馳 坂は決…

薬屋  広江ミチ子  (詩ランダム)

藥屋 廣江ミチ子 苺ほどそこいらだけがあかるい 目盛りのやつれた グラスをかたむけて 糸を壓すと海が みるみるゆれて來て 私には ビンの列しかわからない 『VOU』第4号 昭和10年(1935年)12月 広江ミチ子 行列 広江ミチ子 女教 詩ランダム

行列  広江ミチ子  (詩ランダム)

行列 廣江ミチ子 彈丸よけのラシャ店 シヤボン屋はひげ剃り中 それで貸家は いたるところに 牡蛎のボタンをしるした その町は月夜で ゆびなど くみ合つたまま捨てられる 『VOU』第4号 昭和10年(1935年)12月 広江ミチ子 薬屋 広江ミチ子 女教 詩ランダム

その日に聞かう  酒井正平  (詩ランダム)

その日に聞かう 酒井正平 遠い野の様な表情の中で 咲き暮れたものを取り戻す仕草を なぞらへる様に 古い風景の中に閉ぢ込められた一幅の山水をわけ隔てなく感ずる事により 差別させられたる憧憬をみつもられた懸念の中にと追ひやりながら路々に足りないもの…

果たして泣けるかについてきみは知らない 酒井正平  (詩ランダム)

果して泣けるかについてきみは知らない 酒井正平 雪の中でぼくはみたペリカンはペリカンであつたと十棟の夢が僕を裸にする馬がその活素を吹きながした僕はベッドの上でバラを嗅いだセンセイョと僕は白い髯をみたセンセイョぼくは馬になりたいみよ 町はミルク…

日傘  江間章子  (詩ランダム)

日傘 江間章子 私は午後の庭園を横切る。冷たい石疊に燃え上る花模様の翳を踏んで。白く濡れた林の向ふで搖れるのは仄明るい鏡である。その鏡に映る見知らない村。共同墓地の上に眞靑な太陽がのぼる。すると、木蔭の卓子に俯伏してゐる男の手から陽光のやう…