日傘  江間章子  (詩ランダム)

 

日傘

           江間章子

私は午後の庭園を横切る。冷たい石疊に燃え上る花模様の翳を踏んで。白く濡れた林の向ふで搖れるのは仄明るい鏡である。その鏡に映る見知らない村。共同墓地の上に眞靑な太陽がのぼる。すると、木蔭の卓子に俯伏してゐる男の手から陽光のやうにペンが滑り落ちる。水晶の叢。水晶の草花。けれど陽光は此の中で雨滴のやうに響いてゐる……村では和蘭風な歌が流行する。その歌聲を聞きながら私は丈高い噴水のそばを通り過ぎる。

 

 

 

江間章子 舞踏靴


『春への招待』(東京VOUクラブ 1936)より

 

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