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前川佐美雄『植物祭』Ⅱ (モダニズム短歌)


・ヴランダに地圖をひろげてねむりゐぬコンゴの國はすずしさうなり 

・美しいむすめのやうな帯しめてしとやかにをれば我やいかにあらむ 

・風船玉をたくさん腹にのんだやうで身體のかるい五月の旅なり 

・あを草のやまを眺めてをりければ山に目玉をあけてみたくおもふ 

・壁の鏡にまともにうつるあをい繪よマチスの額(がく)をふりかへりみる 

・この室の氣持をあつめて冴えかへる恐ろしい鏡なり室ゆ持ち去れ

・暴風雨(あらし)のすぎたる朝は奥の室(ま)の鏡さへそこなしに靑く澄んでる 

・覗(のぞ)いてゐると掌(て)はだんだんに大きくなり魔もののやうに顔襲(おそ)ひくる

・耳たぶがけもののやうに思へきてどうしやうもない悲しさにゐる 

・このからだうす緑なる水となり山の湖(うみ)より流れたくぞおもふ

・湖(うみ)の底にガラスの家を建てて住まば身體うす靑く透(す)きとほるべし 

・牛馬(うしうま)が若し笑ふものであつたなら生かしおくべきでないかも知れぬ

・ふらふらとうちたふれたる我をめぐり六月の野のくろい蝶のむれ 

・つかれゐるわれの頭のなかに映り太陽のかげかたちのみちの黒さ

・月の夜の野みちにたつて鏡出ししろじろとつづく路うつし見る 

・六月のある日のあさの嵐(あらし)なりレモンをしぼれば露あをく垂る 

・うつくしく店は夜(よる)からひらくからひとり出て來て花などを買ふ 

・カンガルの大好きな少女が今日も來てカンガルは如何如何(いかがいかが)かと聞く 

・壁面にかけられてある世界地圖の靑き海の上に蝶とまりゐる 

・遠い空が何んといふ白い午後なればヒヤシンスの鉢を窗に持ち出す

・草花のにほひみちゐる室(へや)なればすこし華(はな)やかな死をおもひたり 

・今はもう妖花アラウネのさびしさが白薔薇となりて我にこもれり 

・戦争のたのしみはわれらの知らぬこと春のまひるを眠りつづける 

・ひじやうなる白痴の僕は自轉車屋にかうもり傘を修繕にやる 

・傘(いつさん)の樹陰(じゆいん)にわがねるまつぴるま野の蝶群れて奇(く)しき夜を舞ふ 

・百の陽(ひ)でかざられた世界の饗宴に黄な日傘さしてわれは出掛ける 




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