岡松雄『精神窓』Ⅰ (モダニズム短歌)

・冬花のやうに冴えないわが感情(こころ)にけさカナリヤが凍(こご)え落ちにき 

・森の彼方の靑い合唱(コーラス)群鳩はきのふの夢のやうに輪を消してゆく 

・白鳩の羽波を追へる少女子の眸差(まなざし)たふとし北風(かぜ)よけがすな 

・白い通信をもたらす鳩が迷ひゐてわれを谷間につき落しけり 
  
・夢のやうに忘れられたる白楊をこがらしのなかにわれはみつむる
 
・窓そとはこがらし吹いて野良犬の遠吠えのこゑに指を折るなり 

・冬に衰えてペルシャ猫病みにき耳朶にわれ怖怖(こはごは)とハサミを入れる

・首鈴のじやれ音も空し老猫はペルシャの夢につひに死にゆく

・湖底ふかく星墜ちゆける夜なかにわが純情は魚の瞳(め)となる 

・眞夜中の湖水がじつに靑すぎれば祖先の墓掘り靑玉さがす 

・人間(ひと)住まぬ古井戸の中に靑い月が冴ゆる夜なかは白骨(ほね)探しだす 

・うす靑い光さしゐる花かげのひとの氣はひになにか怖れる 

・月光(つきかげ)の靑さに身をば浄めつつ亡母(はは)の姿を月に呼びかく 

・眞夜中を靑の光が流れゆけばこんなにもわが眸(め)は尊くあるか    

・湖水に靑い月光が冴えてあればここに住む魚が愛しくてならぬ 

・深海(しんかい)に靑い眼玉の魚と住めばフランス少女がまばたきをする 




岡松雄『精神窓』Ⅱ
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