篠原鳳作  (モダニズム俳句)

 

・うるはしき入水圖あり月照

・夜々白く厠(かはや)の月のありにけり

・ガチヤガチヤの鳴く夜を以てクリスマス

マドロスに聖誕祭のちまたかな

炎帝につかえてメロン作りかな

・よぢのぼる木肌つめたしマンゴ採り

・龍舌蘭(トンビヤン)の花刈るなかれ御墓守

・靑空に飽きて向日葵(ひまはり)垂れにけり

・サボテンの人を捕らんとはたがれる

・夜もすがら噴水唄ふ芝生かな

・ハタハタの溺れてプール夏逝きぬ

・大空の風を裂きゐる冬木あり

・冬木空時計のかほの白堊あり

・氷上へひゞくばかりのピアノ彈く

・雪晴のひかりあまねし製圖室

・ふるぼけしセロ一丁の僕の冬

・麥秋の丘は炎帝たゝらふむ

・トマトーの紅昏(くれなゐく)えて海昏れず

・一碧の水平線へ籐寢椅子

・波のりの白き疲れによこたはる

・満天の星に旅ゆくマストあり

・しんしんと肺碧きまで海のたび

・月光のおもたからずや長き髪

・そゝぎゐる月の光の音ありや

・一塊の光線(ひかり)となりて働けり

・起重機の豪音蒼穹(そら)をくづすべく

・ルンペンのうたげの空の星一

・あぢさゐの花より懈(たゆ)くみごもりぬ

・あぢさゐの毬(まり)より侏儒よ驅けて出よ

・日輪をこぼるゝ蜂の芥子(けし)にあり

・芥子咲けば碧き空さへ病みぬべし

・芥子燃えぬピアノの音のたぎつへに

・大空の一角にして白き部屋よ

・雛の眼に海の碧さの映りゐる

・月光のすだくにまろき女(ひと)のはだ

・セロ彈けば月の光のうづたかし

・月光のこの一點に小さき存在(われ)

ひとひらの月光(つき)より小さき我と思ふ

・一掬のこの月光の石となれ

氷雨よりさみしき音の血がかよふ

・我も亦ラッシュアワーのうたかたか

・古き代の呪文の釘のきしむ壁

・泣きじゃくる赤ん坊薊(あざみ)の花になれ

・太陽に襁褓かゝげて我家とす

・蟻よバラを登りつめても陽が遠い

 

 

 

 

 

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