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早崎夏衛『白彩』Ⅱ (モダニズム短歌)


・意識さへカメラにくれしたまゆらは空に樹氷のきらめきぞあり 

白薔薇のなかにわれあり霜に霑(ぬ)るる軟地(やはら)をふみて散歩しければ

・華やかに咲く飾燈のひかりうけ酒のみつぎてきはまりもなし 

・壁のすそにうづくまりゐる少女なり手をさしのべればまたたきをする 

・目をつむり眞夜なかの街(まち)を歩くなればでこぼこの地面がかなしまれくる 

・眞夜(まよ)の街にふいと停(と)まりし一瞬を魔もののやうにわが影を怖る

・ああかくもうるはしの花を胸にさし地獄おちなどたまらざるなり 

・喧嘩してわかれた友の奇妙なる鼻のかたちをスケツチにする  

・Prismeで覗かれてゐるわれなればマラスキノのみ身を粧ふべき 

・ひとすぢのながれ胸(むな)ぞこにMARASCHlNO泌みて物たちはゆめ象(がた)となる

・わが黝(くろ)い心の瑕を照らさんと手燭をともす女にぞある 

・眞夜なかに泪のごはずさびしさをみつめゐるわれはいつち美しき 

・うたがひのゆとりあたへずわれを去りし白い天使をなつかしみゐる 

・空のいろの美しい天使の舞ひざまを崩(く)え崖に立ちわれみつめゐき  

・かなしみを遠い野の果(はて)に埋めおき朝なつかしく花添へてくる 

・うつくしい人間たちのおこなひはわが知らぬ園に花咲かせゐる

・血液で彩られたるひと冬の記録もいまは土に埋むる 

・ひたすらにひとりの命を殺しきていま靑天に裸體をさらす 

・花の匂ひを指に含めて書きためるアドレスの無い葉書のみなり 

・春晝(しゆんちゆう)をあそぶ濱べに貝殻のひとつひとつの紅(べに)のにほひよし

・吾をめぐる蛇性(だしよう)の目からぬけいでてフランス觀光船の白い胸をおりる 

・生きものがきらひでならぬわれなりし小狗をだいて日あたりに出る

・港まちの螺線階段の家にゐて海からきたるなげかひのあり 

・爽やかな空わたりゆきひとりでに足踏みをすることはいなめぬ 

・硝子窓に蝶の羽ひとつ粘りついてわれにかかはらず外の暴風雨(あらし)は 

・靑一彩に匂ふ原ッぱをつらぬいて小徑ばかりがどこまでも冴える 

・この怒りをうからにうつすはかなさにゴンドラにのつて空にあそばん 

・じつに粗いタッチでなすつた海の靑さ白色珊瑚もえたりかしこし

・一月の海に貝殻を追放せしわれのあたまはあをぞらとなりぬ 

・かがやけるシヤンパンのカツプにふれる口唇(くちびる)妖につややかな花はそれなり 

・かがやけるシヤンパンのカツプにすこしかくれフリイジヤの白い花灯(とも)りゐる 

・冬の飢渇にリキユールをたらす孃の眸(め)のつぶら葡萄をかみつぶしやる 

・肘つきのあゐのびろうどにおいた手に白い匂ひが添へかさねらる 

・風がわく廊寂(さ)びくらく顔顔が遠くにちかくにしらじら笑ふ

・薄氷の濁る水面に憂欝な東京の風貌をふと感じたり 

・黝ずめる空の重きにひしがれしわがこの室に電話きたりぬ

・千萬の樹樹の枝枝折れ盡きてわが身をめぐる季節となりたり 

・歪み墜ちた階段にいつか停(た)つてゐて白雲ばかりわれはぬすめり 

・からつぽの靑空に白く浮かびゐる氣球もつひに見てしまひたり 

・空のひかりあつまりて咲く花でありわが影もいまは淋しくはなし
 
・はじめてみつけたやうな空なりき猿(ましら)の顔を彫(ほ)れる白雲(くも)浮き

・ソウフアの下にまがつてかくれきいた靑い聲とこゑをわすれえぬなり

・螺旋階段を踏みはづしたやうな悔もちて寒い泥土(ねいど)の感觸にひたる 

・風のなかにはげしく頽(くづ)るるものおとが暗いみちからひびき馮きくる

・卓燈のshadeにすがれし冬花(ふゆばな)のごとくうごかぬ縞蜂がゐる 

・いつぴきの縞蜂をわれはおひぬいていつしか追はれゐる夢をみし 

・夜の室のこまごまとしたものかげに怯えてつひに街にいでたり 

・汽車の窓に過ぎゆく白や赤の花にわが憂欝を捨てようとする 



 
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