古びた庭園 利野蒼(李張瑞) (詩ランダム)

 

古びた庭園

                                     利野蒼(李張瑞)

 

月光を浴びて、古びた庭園の影、ゲツキツの香気に讃美歌を口ずさむ少女、その横顔。


虚空を流星の聖母は月桂冠をぬいで上天する。


天国の扉は愛の悲しい使者である。少女の柔い手には脆い。アダムとイブと林檎。少女は常に聖書(バイブル)を離さない。


地上の夢は神の嫉妬を恐れて。
ゲツキツは匂ふことをためらひ。少女は歌ふことの自由を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

文雅「『LE MOULAN』第3輯における李張瑞の作品」より
原文は正漢字、歴史的仮名遣いなのであろうが、現物未見なので阮氏の表記のまま再現させて戴きました。

利野蒼の現在発見されている作品は全20作。その内2つが短編小説、残りは詩、その詩のうち7つが、台湾の研究者によると現在中国語訳しかないようです。

 

 

利野蒼 或ル朝

利野蒼 白き空間

利野蒼 セエター

利野蒼 テールームの感情

利野蒼 風景ノ墓石

利野蒼 迷路

利野蒼 臨終

 

水蔭萍 雄雞と魚 台湾 風車詩社
林修二 喫茶店にて 台湾 風車詩社
丘英二 星のない夜 台湾 風車詩社
戸田房子 遠い国 台湾 風車詩社

 

 

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詩ランダム

 

 

 

 

 

白き空間 利野蒼(李張瑞) (詩ランダム)

 

白き空間
                                    利野蒼(李張瑞)


紫色の硝子は夜明の薔薇ではない。冬の恐怖は心臓を病む胡弓であって菊の花弁を集めない。
微風に戦く性の羞恥とアラビヤの王子に恋する王女の無躾。処女のポストは生々しい虚空であった。私の頭脳は刺青した生蕃女の乳房である。

 

 


文雅「『LE MOULAN』第3輯における李張瑞の作品」より
原文は正漢字、歴史的仮名遣いなのであろうが、現物未見なので阮氏の表記のまま再現させて戴きました。

利野蒼の現在発見されている作品は全20作。その内2つが短編小説、残りは詩、その詩のうち7つが、台湾の研究者によると現在中国語訳しかないようです。

 

利野蒼 或ル朝

利野蒼 セエター

利野蒼 テールームの感情

利野蒼 風景ノ墓石

利野蒼 古びた庭園

利野蒼 迷路

利野蒼 臨終

 

 

水蔭萍 雄雞と魚 台湾 風車詩社
林修二 喫茶店にて 台湾 風車詩社
丘英二 星のない夜 台湾 風車詩社
戸田房子 遠い国 台湾 風車詩社

 

 

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出口王仁三郎  (モダニズム短歌)

大本教教祖出口王仁三郎は、モダニズム短歌が盛んだった当時、前川佐美雄の『日本歌人』や前田夕暮『詩歌』等多くの歌誌に投稿していた。歌は旧来のものだとされるが参考のために。

 

 

・秋の夜の月はうごかず庭の面(も)を照らせど暗きわが戀心(こひごころ)

・スクリユーの音たかだかと枕邊(まくらべ)にひびきて船の夜は更けにけり

・山も野も眼(まなこ)に入らぬ夜の旅は吾が若き日の戀に似しかな

・まれに逢ふ七夕星のそれならで及びもつかぬ戀もするかな

・長髪を風に靡(なび)かせ道ゆけばアナーキストとあやまられたり

・神憑者すがたあやしくさけび居り神靈科學會の庭のおもてに

・庭の面(も)の松吹く風にカナリヤの籠はさゆれて啼き止みにけり

・バイブルの頁(ページ)めくれば去年(こぞ)の秋に挾みし公孫樹の薫りしたしき

愛宕山ケーブルカーの電燈の灯(ほ)かげは見えず山けぶらひて

・エンヂンの音聞きながら自動車の動き待つ間(ま)のもどかしきかな

・スクリユーの波きる音に眼さむれば玄界灘の夜は明けてあり

玄界灘のあなたに靑々と浮ぶ隠岐の島!新しい塗料のやうに

・トマトのかをりゆかしき朝ばれの畠に立ちて夏を親しむ

・カナリヤの清(すが)しきこゑに朝のゆめ呼びさまされて靜心(しづごころ)なき

・水底の月影取らむとする猿にわが戀は似たり如何にせばや君を

・ぬば玉の君が黑髪匂ひけり待ちくたびれていねし夜の夢に

・オートバイの音しきりなり眞夜中に罪人を追ふ警官の群

・若き女の白魚の手はピアノ台の上かるがると蝶のごと飛ぶ

・日本(にほん)ライン速瀬(はやせ)くだればわがふねの日覆(ひおひ)をどりて波の穂高

・川舟(かはぶね)に春さむ顏のをみなゐてころも洗へり日本ライン

・ヴエランダにわれ立ちをればアカシヤの梢そよぎて蟬時雨(せみしぐれ)すも

・ケーブルを出(い)ずれば比叡の山なみをつつみて白く霧のながるる

・なげてもなげても思ひ人が握つてくれない、もどかしいテープだ

・デツキから投げつけたテープを確(しつ)かり握つた對手(あいて)の顏を見つめてゐる

・オートバイの音たかだかと砂けむりたてて道ゆく秋日和なり

・白きあかきコスモスの花に月冴えて夜半(よは)の神苑はすがしかりけり

・塗料の匂ひが異様に鼻をつく、霧の丹波の朝のヴエランダ

・たわたわと鴉は止りあぐみ居り野邊のポプラの細き梢に

・感傷的な彼女の眼に歡びと淋しさを感じてゐる、夜!

・終日を山に狩して兎一匹獲物も持たずコメデイアンの様な面(つら)して歸る

・恐ろしき夜の道さへ戀ゆゑに通ひつめたる若き日もありき

・ねむたさうな金魚賣の呼び聲に晝寢の夢がだんだん深くなる

バツトの箱のやうな冬晴(ふゆばれ)の空、大日蓮峯はプラチナのやうに光つてゐる

・公衆の前に琴を彈(だん)ずる耻(はづ)かしさうな彼女の姿が自分の心をチヤームする

・マツチ箱のやうな郊外電車が走つてゐる、人の頭が二つ三(み)つ見えて

・ウラル山(さん)遠くふみこえ外蒙古の民すくふべく駒にむちうつ

・バラスの一つ一つに月が宿つてゐる、雨はれの夕べの神苑だ

・うす濁る金龍池(きんりういけ)の底ふかく遙れてゐるかも冬の夜の月

・一本のウエストミンスターに室内の空氣がぷんぷん匂ふ朝

・籠のセキセイインコが獨り居の自分をそそつて夜の街を步かせる

セキセイインコのキツスしてゐる睦じさを見つつ思へり若き日の吾を

・カフエーの女だらう、湯上りの金盥(かなだらひ)を持つた儘そつと横路にそれた

・マガレツトの花さびしげに咲いてをり箱根の町の藁屋(わらや)の軒(のき)に

・山道にバスを馳せつつ谷底に幾すぢかかる瀧を愛(め)でゆく

・雨(あめ)はれの伊豆街道をどよもして鑛石(くわうせき)はこぶトラツクはゆく

・地の上に綠樹のかげを描きつつ空すみわたる夏の夜の月

・さみどりの庭に一本(ひともと)あかあかと百日紅(ひやくじつこう)の花はにほへり

・土用日(ひ)ざかりの空氣を動遙させて、なり渡る製材所のサイレン

・大樹の梢から生捕つた梟のあけつ放(ぱな)しな瞳孔

・コスモスの花から來るやさしい感情、乙女の純情をおもふ

・大空の星のかがやき仰(あふ)ぎつつ蒙古の旅にありし日を思(も)ふ

・オリオン星座が頭上にかがやいて凍(い)てはじめた雨後の庭

・はつきりと明けきつた宿の朝、釜石山(やま)の殘雪がプラチナのやうに光る

・裸木の栗の梢にひつかかつてゐるオリオンの星

・日活の俳優と膝を交へて語る夕べは劇そのままだ

・月の世界に自分の魂がいついてゐるやうにいつもみ空が慕はしく思はれる

・船からなげたテープのきれた瞬間自分の魂は波止場の波にいついてゐる

・瞬間もわが生命の斷片と思へば惜しきいのちなりけり

 

 

 


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モダニズム短歌 目次


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横山房子  (モダニズム俳句)

 

・南風の港の晝に今日も來(き)ぬ

・アシカ棲む水にすだまは夜は戱(たはむ)る

・原稿の出ぬ日の貌が壁を凝視(み)る

・遊歩場朝(あした)のバラに人在(あ)らず

日時計の埃に高く陽がゆける

・戰傷者のバス過ぎ鋪道よみがえる

・昏れ早き一日の果を米濯ぐ

・濯ぎゐる米の白さに闇まとふ

・北風(きた)すさぶ海獸にゐて咆ゆる

・北風すさぶ汽笛も航(ゆ)かぬ刻更けて

・キー打てば活字の唄の胸に充ち

・決別のことばタイプの邊にみじかし

・蝶墜ちぬあしたタイプの機油匂ひ

・凍蝶(いててふ)の眼を怖(お)ぢタイプライター打つ

・春潮に抛(なげう)つ小石の描ける線

・あらせいとう汽車の音波きて顫ふ

・新綠の炭坑(やま)に炭車と人黑く

・文殻を焚くと汀の闇に下りぬ

・文殻の炎に海の闇ゆらぐ

・照空燈めぐる沖向き髪を乾す

・鷗まひ窓の海港をはるけくす

・雛まつる玻璃海港の雲を浮かべ

・海峽の夜潮に煙草すへる女

・驛昏れてホテルのグリル靑く灯る

・ランチタイム學童歸る白き橋

・兵ゆきてばら垣の雨しげくなりぬ

・雪の夜の黑き蛾を怖(お)ぢ浴槽に

・霜深き朝出勤のうすき化粧

・重き封書手に梅雨をくゞりゆく

・梅雨夜更け封書の墜ちし音ポストに

・輕氣球黑き魚のごと夏空に

・光失せし氣球は天の鍵穴か

・輕氣球たゞよひ夏天の深き弧よ

・虹きえぬ黄昏の空街にのこり

・愁ある夜はひとえ帶黑き衣(い)に

・汗ばみし帶とけば窓に星ながる

・デツキの灯しろく月光海にあふれ

・月光のデツキに二人の刻ながれ

・燈管のケビンの外をゆく独逸語

・食卓に陸(くが)の花愛(め)づ船の朝

・競馬みるねむたき瞳(ひとみ)にしむ葉巻

・競馬果て枯れし芝踏み人を待てり

・海峽の空の冬雲しろがねに

・ひる月をさむきデツキの子等に指す

 

 

 

 

 

モダニズム俳句 目次

 

 

村田とし子  (モダニズム短歌)

 

・何と云ふかなしい歌をうたふでせふ雪のふる夜は蓄音機までが

・王女さまの瞳のやうなはなやかさぱつちりひらいたたんぽぽの花

・霧ふかい山ふところの溫泉の宿の日暮れを散る山桜

・玲瓏とあをくはれてる大空のひるまぽつかり出たお月さま

・うえとれすのあいそも少いていぶるに匂ひをためた水仙の花

・地を泳ぐむすめ人魚の見るゆめよゆめのほかげに咲くシヤンデリア

・爛々ともえるは赤いけしの花もえるは娘のこの戀ごころ

・星もない月もない夜だこんな夜こつそり地球をにげてゆきたい

・若い日は消えてかへらぬ日附印かへて淋しい心になつた

・電報の死んだ人數おもひかへし心も暗くかへる雪道

・人を戀ふときの心のかがやきは彗星のやうに靑くあかるく

・泣け女涙をからせくだかれた心の瓶に何がくめよか

・消えてまたおぼろに浮ぶひとの影靑磁の壺の色のつめたく

・煮ものする鍋にふつふつ白い湯氣朝は靜になごむ心よ

・薪をたく煙にむせて開け放つ厨の窓に冬の雨つめたく

・感情が火花をふいてる卓上の西班牙皿の眞赤な林檎よ

・むすめ心失ふまいと休憩のわづかさおしんで握る竹針

・自動車を乗り捨てて立つ日暮近いホテルの夜の赤い葉鷄頭

・化粧終へて女同志の氣安さに帶もなほさず宿の箸とる

・湯づかれの輕いけだるさ窓の近く寄れば氣ぜわになきたてる百舌鳥

・夜の雨ほそくつめたく降りそそぐ旅の心にほそくつめたく

 

 

 

 

 

 

 


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モダニズム短歌 目次


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「存在」に就いて  古賀春江  (詩ランダム)

 

「存在」に就いて

          古賀春江

うるんだ眼から指が動いて
靑い水の滴りを掬ひあげる
深い重みが遠い所からやつて來る
微笑(ほゝえ)みながら頁をめくると
掌の上にある桃色の鳩の羽が
落ちぼけた顏をなめるやうに
昔噺の本を案内する


切斷の整理はしかしどんなに努力しても
甘いア・プリオリは猾(ずる)いよ
背廣の背中を柔らかな手で撫でられて
街頭で股は高く切れあがつた
清々しい靴音で若夏花の匂ひを立て
兎に角姿勢は先づ上々
蒼穹の紫の影もまた傳説の鏡か
古い體溫の穴を開けて
深夜の夢を組んでゆく


地球の雜音が時間に映つて
頭の毛を後から引つぱる
美しいものは何所にもある
窓は平面
雨脚をうんと突つ張つて
匂ひの眞實を嬉しがる
美しい椅子に美しい少女の貌
花瓶の葩が窓からの風に散る
少女の指が一寸動くと
空の星の一つが飛ぶ


「存在」は純粹である。

 

 

 

『美術新論』(美術新論社 1933年4月)

 

 


詩ランダム

 

 

製作  古賀春江  (詩ランダム)

 

製作 

          古賀春江

純粋な理念は純粋な行為であつた
私は昨日死んだのだ
埃のために汚れた太陽も今洗滌しなければならない
凡ての価値が両側の鳩のやうに落ちて
しかし精神がある限りそれは色づけられては見られない


儚ない夢のはぎとられた時
時間が見合をはじめる
純粋の死人の魂の暖い手に抱かれて
私はその室から街へ歩き出す

 

 


詩ランダム