光の氷花  乾直恵  (詩ランダム)

 

光の氷花

           乾直惠

僕は吸入器の天使らに慰安を求めなければならない。
垂した白いエプロンに、一ところ肺臓型の汚點(しみ)がある。

 

僕は規則正しく服藥しなければならない。
手のオブラートは薄い。去つて行つた戀人のやうに。

 

僕はレントゲン光線の前に立たせられ、宣告を受けなければならない。
光の氷花(つらら)が堅固な扉を開くので。

 

僕はぼくの樹根のやうな肋骨の底深く沈み込んだ。宿命の朽葉を信じなければならい。
撮影された胸腔の内部を覗かせられながら。

 

そして、僕はいつも少量の食物と一しよに、砂のやうな僕自身を嚙みしめなければならない。
齲つた大臼齒の奥の方で──

 

 

 

※「信じなければならい」→「信じなければならない」多分。


『肋骨と蝶』(椎の木社 1932)より

 

 


乾直恵 朝は白い掌を
乾直恵  Echo's Post-mark
乾直恵 神の白鳥
乾直恵 菊
乾直恵 極光
乾直恵 睡れる幸福
乾直恵 鮠
乾直恵 村

 

 

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