上田穆 Ⅰ  (モダニズム短歌)

 

・散歩人種は
 マヌ・カンとなり
 視線だけが
 空間のなかで
 音叉をはじく

・腦髓と
 腦髓と腦髓と
 プランクトンだ──
 みじめなほどに
 模索し合つて

・皮膚はみな
 魚族となつて
 糸のさきの
 銅臭を目懸けて
 あつぷ、あつぷ
 喘ぐ

・剝落する
 音がしめやかに
 蒸せてゐる──
 深夜の舗道は
 瘴氣を植ゑて

・ギニヨールを踊らせてゐる
 香具師の眼に
 行人の眼が
  ──突出た
  ──凹んだ

・公衆電話が
 ここにも ぽつんと置かれてゐる──
 交換手に
 春の挨拶を送らう

・沼である
 草がゆれてる
 草のなかで
 ウクレレを鳴らす

・丘は高い
 地平に遠い─
 馬に乗つてかげゑが通る
 幽霊が通る

・街道だ
 自動車が闇を追つかける
 砂塵がまひのぼり
 おいてけぼりの月

・ゆふぐれの都會は まぼろしの灯をつけて
 後家さんが通る
 犬をつれて──
 若い! 

・びいるだ!
 びいるだ!
 あつちでも こつちでも
 よんでゐる──
 わびしいたんぼの
 からすのやうに

・食欲直線──
 性欲直線──
 がらくたの生命の馬車を
 きしらせてゐる

・めかして
 すまして
 春風に乗つて
 露出して
 甘へて
 恥骨の自動磨滅作用

・をどつてる
 たはむれてゐる
 舞ふてゐる
 つながゆれてる
 つなわたりです

・無限連續の循環に手を擱く
 手のしびれ─
 夜陰の花のひそかな媚體

・軌道は無邪氣に平行四邊形を装ほひ──
 車輪の隋力が
 ぎくり ぎくりと辷る

・落葉の散らばる舗石の上に
 人の足と 機構の網と
 からんで搖れる

・一つの確かな實在が踊る
 醉ひ心地
 窓枠もなく
 華美なアラベスク

・ダンス靴に
 ひそかにオナニスムをやつてゐる
 トレモロ
 トレモロ
 媚藥の撒布

・直線、曲線
 バネがなびくよ
 足が
 頭が
 みんな空を向き
 みんな手を振り

・おしやべりは
 蓄音器が引受けてしまつたし
 奥さんは
 欠伸をお嚙みしめになる

・蒼い顔して
 煙草ばつかり吹かしてる──
 コリユームの莖の透けるやうな官能

・そのちつちやな
 あなたの二つの
 靴のさきに
 纖い哀歡の
 銀が散ります

・墓地の向ふに スパークはあがり
 醉つてゐるな──
 といふ意識が遠く映つた

・馬と私に
 すばらしいインスピレーションを強調した
 拍車だ 拍車だ
 きらめく一線

・うみの
 おほきなめらんこりいにつつまれて
 きままな情熱の散策だ
 月だ

・をんなは をんなは
 しろく なやましい
 海よ
 あんにゆいの伴奏をやめてくれないか

・うみの遠くへ
 のりだしてゐる半島に
 わたしは
 わびしい静脈をきく

・をんなに云ひよる 海の饒 舌──
 しつとりと
 ぬれてあをざめた
 わたしの心臓

・ドロツプのあまさが
 都會を攪乱する!
 斷髪、斷髪──
 カンニリングス!

 

 

 

 

上田穆 Ⅱ

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