画布に塗られた陰について 酒井正平 (詩ランダム)

 

 

畫布に塗られた陰について

           酒井正平

 繪を探すには月の無い窓を必要とする様に裝ほへる鏡の中の碧さにかたつむりの舌を意識する 畫くのは何時も人の姿 歩くのは何時もさがない美しさから 寢室に招(よ)ばれたさゝやかな饗宴の中から綠色の落雁の扉を開くと 猫の持つ月が石の上に咲いて居る かたつむりの中に忘れられた風景 つまさきで立ち上つた夕日の夕日の持つ横顏への愛撫 白い窓 手をつないで下りて來る鷗ら 遊ぶとき頰にうつす子供達子供達の中で遊ばれる時間を 椅子の様に壁の一部を占めさせながら 緣飾る鏡が僕等にそれを示差(おし)へる 鳩の中で動いてる月が晝の月をはづかしめる 手を座(つ)いた逃亡者へその影までも美しく畫かれる。

 

 

 『文學』(厚生閣書店 1933-03)

 


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