2017-01-01から1年間の記事一覧

赤い作曲  石野重道  (稲垣足穂の周辺)

『彩色ある夢』1983年版より 深夜 モモ色のカーテンを窓におとして、未来派の作曲者L・O氏は、ピアノの前に居るXXXX 古への、サラセン帝国の蒼空と尖塔に乱れて、深紅のストツキングが、騒音と、怪韻に舞踊をする 無数の音彩が、正乱として不正のうちに凝り…

廃墟  石野重道   (稲垣足穂の周辺)

足穂「黄漠奇聞」の元になった作品。 足穂がその構想を話したら石野がこの作品を作り、それをベースにして「黄漠奇聞」が書かれたと云われている。 (『彩色ある夢』1983年版より) はてしなき砂漠である。 太陽があかく砂から昇つてさうして砂のなかへあかく…

キヤツピイと北斗七星 石野重道  (稲垣足穂の周辺)

『彩色ある夢』(1983年版より) さすが、稲垣足穂の盟友というべき作品。 キヤツピイは、リンゴの頬の、キイロいネクタイの少年で、夜芝生の上に、腰を下ろして休んでゐた。あたりは静であつた、キヤツピイは星を眺めてゐたが──からだを三つの弓にして、長い…

PARE SSEUX MERITE (怠惰な偉勲) 星村銀一郎   (稲垣足穂の周辺)

勲章を吊げた天使は劇場の煙突掃除をしてゐた時に黄昏の魚の跫音がした。魚は綠色の腦膸を映寫する故に私は小鳥の睡眠する海へ逃亡する。午後は憂鬱の海の園丁の頸に波斯猫の眼を燃やす斯かる永遠の瞬刻に於て私は女優の肖像を崇拝する。それを知つた女優は…

草飼稔 Ⅰ  (モダニズム短歌)

・虹のきものの女の子 きみはみ空のお人魚 散つて消(しま)つた うろこ雲 ・しやぼん玉 しやぼん玉の偽のない色は 稚(ちい)さな音で そのやうに消えた。 ・びい玉 びい玉 稚い夢のきれぎれを さまざまな色の 絹絲にむすんだ。 ・おもひ出は ゆめと うつゝの …

下條義雄 Ⅰ  (モダニズム短歌)

・春來(はるく)ればまた生(い)くる日を美(は)しといふ光(ひか)る若葉(わかば)もとく萠(も)えいでよ ・神(かみ)ありとつゆ知らなくに少年の眉びきとほく雪を仰ぎし ・火山系北(くわざんけいきた)にきはまりゆくところわがゆきし村ありて雪をふらしつ ・花の散…

中野嘉一 Ⅱ  (モダニズム短歌)

・人家稠密ナル市街卵白(オパール)ノ娘等トビ「愛人よわれに歸れ」ト唱フ ・奇シキサラセン模様ノ春季(ハル)ノ風嗚呼麒麟ノ頸ハ梢ニ見エル ・地球儀ハ花籠ノヤウニ置カレタ手術ノメスノ光リヲ感ズル ・電柱ガ少シ傾クソコカラ熱イ血ガホトバシツテイル ・遊…

岡松雄 履歴その他 (モダニズム短歌)

岡松雄(おかまつ たけし) 履歴1908年(明治41年)8月12日高知県幡多郡奥ノ内村(現在の大月町)に生れる。 1925年(大正14年)4月1日(社員名簿には3月2日入社とあり)上京。書肆冨山房入社。同所で『橄欖』の小笠原文夫を知り短歌に興味を持つ。 1931年(昭和6年)前…

中野嘉一 Ⅰ  (モダニズム短歌)

・これが薔薇の花であるかといつて雀が一匹垣根を越ゑる ・電子(エレクトロン)ら 春の沿岸を泳いで 白い生物を探検する 眞空の世界は遙かに遠い ・毀れた街の斷面 水族館の硝子扉に石化したははこぐさ達 ・好きな幾何學が曇つてゐる 天井の雲雀は靑ざめてゐ…

廣江ミチ子 Ⅰ  (モダニズム短歌)

・花ひらく この家のフラスコは既に壊(こは)れた 古びたる庭の隅で羊齒は風琴を彈(ひ)いてゐた ・音符の灯がついた あかるい階段を一つ一つのぼつて行くピアニストのてぶくろの影 あれはラヂオです ・いく晩も年りんに月が出た 稚魚の住む みづうみは銀のら…

日比修平『冬蟲夏草』Ⅰ (モダニズム短歌)

・斯きて花ひらかせし罪ゆゑにひとでとなりて土にひれふす ・溫室の天のガラスに海港のとある場面がさかさまに見え ・御(おん)とのゐ絶えてあらねば球根はにく厚き芽をふきにけるかも ・溫室にぬすびとひそみ居るなれど花瓣がそつてひらく夜となり ・裝束の…

水夫とマルセイユの太陽  星村銀一郎  (稲垣足穂の周辺)

薔薇の化粧をしたマルセイユの太陽は軍艦のマストの上で逆立をしてゐるやうに 水夫は船窓の花の中から桃色のストツキングに包んだ足を出してゐる水夫の喫つてゐる暖かいコステユームに似た煙草は花屋の煙突である 港に菫色の薄明が盗人のやうに足を運んで來…

モダニズム短歌  目次

明石海人『白描』 飯田兼治郎 筏井嘉一『荒栲』Ⅰ 筏井嘉一『荒栲』Ⅱ 石川信雄『シネマ』Ⅰ 石川信雄『シネマ』Ⅱ 石原純 井上多喜三郎 上田穆 Ⅰ 上田穆 Ⅱ 太田靜子 小笠原文夫『交響』Ⅰ 岡松雄『精神窓』Ⅰ 岡松雄『精神窓』Ⅱ 岡松雄 履歴その他 加藤清 加藤克…

中田忠夫  (モダニズム短歌)

・さるにても遠き月日よあまざかるIRANの空に馭者座(カペラ)がまはりし ・遠くにて銀河のめぐる夜々(よよ)となり魚(うを)の目玉にガラス植ゑらる ・牛追へば白き月いでぬ郷愁よ樹々を吹く風に言葉はならず ・かぎりなく散るは鱗翅か秋なれば窓に硝子の波紋も…

田島とう子  (モダニズム短歌)

・屋上のともしき土に誰(た)が植ゑし鳳仙花のはなこぼれてやまず ・月にさへかくれまほしくせし秋のいたきおもひはわが影となりぬ ・逝く秋のひと夜のをごりセロ聞くと好きなる衣(きぬ)をとりいだしたり ・ひとも無く會場もなく音律のながれにひたりてわれさ…

明石海人『白描』  (モダニズム短歌)

・大空の蒼ひとしきり澄みまさりわれは愚かしき異變をおもふ ・蒼空の澄みきはまれる晝日なか光れ光れと玻璃戸をみがく ・蒼空のこんなにあをい倖をみんな跣足で跳びだせ跳びだせ ・掻き剥がしかきはがすなるわが空のつひにひるまぬ蒼を悲しむ ・涯もなき靑…

平田松堂『木苺』  (モダニズム短歌)

・山の下へ下へ下へとなびかふも靑海の上の一面の茅 ・斷層の幾番目にか殘る陽あたりその日當りの直きにうごけり ・道のべのしらやま菊の白花は往けども往けどもこの花咲けり ・夕しづの湖には動く雲のありて島にはわたるあざやかに見ゆ ・水際の夕木(ゆふぎ…

田中火紗子『土塊』Ⅰ (モダニズム短歌)

・さびしく 水線から空に すでに歴史へくらました思慕 ・紅(あか)く 晝顔みたいにおろかに 何が これほど纏綿と つながるのかしら ・潮が鳴り 潮どきの あでやかすぎる自負のまんまで ・さるすべりが咲いた、溫度たかく 濃く 赤く ・とめどなくむらがり、炎…

高須茂  (モダニズム短歌)

・底知れぬ深さの中にかかりゐる地球を思へり天幕の中に ・ラテルネにルツクサツクが映(うつ)りをりわがピツケルを磨き了へし時に (ラテルネ=手提げランプ) ・うつさうと茂れる大樹(たいじゆ)の上にきて月の光はまつさをとなる ・極地天幕張りてわれらにこと…

美木行雄 Ⅰ  (モダニズム短歌)

・セロリーの齒(は)の泌む別離(わかれ)といへば、いつまで儚(はかな)い、白い鷗の窓かしら。 ・歐州メールV汽船は、もう十日地圖(とうかちづ)のうへで、税關(ぜいくわん)の旗、夕(ゆうべ)の雲など・・・・・・また自殺だと騒いでゐる。 ・スーヴニール、スー…

早野臺氣(二郎)『海への會話』Ⅰ (モダニズム短歌)

・夏なれば朝の砂濱にましかくにガラスたておく拔けとほりゆけ ・覗きをる日覆(ひおひ)の裂け目へうみのなみの横たひらかなみどりがながる ・KIRA KIRAと硝子かついで泳ぐなるせなかのうみは午后なり波あり ・海にむけ飛ばされおちし日覆ありぱつとひろがる…

加藤克巳『螺旋階段』Ⅱ (モダニズム短歌)

・ハンチングのおとすかげから傾きて海面はわれの周囲となる ・貝殻の旗で装つてしづしづと夜の酒場へぬすびとにゆく ・はすかひに港の氷雨たへまなくぬれ色あをき石ころをける ・鋭心 石なげつける 竹だけの 音とんで來る われのまなこへ・草々にこもる命を…

早崎夏衞『白彩』Ⅲ (モダニズム短歌)

・冬の季節の花の香氣の満つる室(へや)にわが血液の濁(にご)れるを知る ・血液の濁れるを呪ふわれとなりて眞夜(まよ)のひびきをわが胸に聴く ・いまわれは阿呆の果實(このみ)たべあいて木登りあそぶかなしさを知る ・まつしろにひかる疾風にとびのつて子とあ…

早崎夏衞『白彩』Ⅱ (モダニズム短歌)

・意識さへカメラにくれしたまゆらは空に樹氷のきらめきぞあり ・白薔薇のなかにわれあり霜に霑(ぬ)るる軟地(やはら)をふみて散歩しければ・華やかに咲く飾燈のひかりうけ酒のみつぎてきはまりもなし ・壁のすそにうづくまりゐる少女なり手をさしのべればま…

前川佐美雄『植物祭』Ⅱ (モダニズム短歌)

・ヴランダに地圖をひろげてねむりゐぬコンゴの國はすずしさうなり ・美しいむすめのやうな帯しめてしとやかにをれば我やいかにあらむ ・風船玉をたくさん腹にのんだやうで身體のかるい五月の旅なり ・あを草のやまを眺めてをりければ山に目玉をあけてみたく…

前川佐美雄『植物祭』Ⅰ (モダニズム短歌)

・春の夜のしづかに更けてわれのゆく道濡れてあれば虔(つつし)みぞする ・手の上に手をかさねてもかなしみはつひには拾ひあぐべくもなし・おもひでは白のシーツの上にある貝殻のやうには鳴り出でぬなり ・床(とこ)の間(ま)に祭られてあるわが首をうつつなら…

加藤克巳『螺旋階段』Ⅰ (モダニズム短歌)

・のばす手にからまる白い雨のおと北むきの心午(ひる)を眩みぬ ・うすじろいあさの思念になにをみし机の上にめくられてあはれ ・書籍のかさなりくぐるむらさきの烟(けむり)たゆたふ梅雨の重たさ ・暗い雨するりぬけて蛇の背のひかりかきくれ雨のひびかひ ・…

石川信雄『シネマ』Ⅱ (モダニズム短歌)

・嬰児(みどりご)のわれは追ひつかぬ狼におひかけられる夢ばかり見き ・黒ん坊の唄うたひながらさまよつた街(まち)の灯(ひ)のくらさ今もおもはる・すばらしい詩をつくらうと窓あけてシヤツも下着もいま脱(ぬ)ぎすてる ・あやまちて野豚(のぶた)らのむれに入…

斎藤史『魚歌』Ⅲ (モダニズム短歌)

・夜毎(よるごと)に月きらびやかにありしかば唄をうたひてやがて忘れぬ ・たそがれの鼻唄よりも薔薇よりも惡事やさしく身に華やぎぬ・夕霧は捲毛(カール)のやうにほぐれ來てえにしだの藪も馬もかなはぬ ・定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジヨ…

斎藤史『魚歌』Ⅱ (モダニズム短歌)

・山の手町がさくらの花に霞む日にわが旅行切符切られたるなれ ・野生仙人掌(さぼてん)や龍舌蘭の葉に刺されゆく白い不運はしあはせらしく ・南佛にミモザの花が咲き出せば黄のスカーフをわれも取り出す ・赤白の道化の服もしをれはて春はもうすでに舞台裏な…