2018-01-01から1年間の記事一覧

西東三鬼  (モダニズム俳句)

・聖燭祭工人ヨセフ我が愛す ・燭寒し屍にすがる聖母の圖 ・あきかぜの草よりひくく白き塔 ・貝殻のみちなり黑き寡婦にあふ ・風とゆく白犬寡婦をはなれざり ・聖き夜の鐘なかぞらに魚玻璃に ・東方の聖き星凍て魚ひかる ・水枕ガバリと寒い海がある ・黑馬…

モダニズム俳句 目次

小沢青柚子 片山桃史 桂信子 神生彩史 神崎縷々 喜多青子 西東三鬼 篠原鳳作 すずのみぐさ女 高屋窓秋 富澤赤黃男 中村節子 東京三(秋元不死男) 日野草城 平畑静塔 藤木清子 三橋鷹女 横山白虹 横山房子 渡辺白泉 このブログ作成に関してオーテピア図書館(県…

風景  酒井正平  (詩ランダム)

風景 酒井正平 指頭にでゝ馬の様に笑ふ。果實の中で他人の花をまちがへる。オトトヒそれは路で野望をいだいた。何故(な)かバイソンを愛さなかつた。ロヂツクの時間女學生達は草むらで寢てゐた。「センセイハ主知主義者デイラツシヤイマス」 『MADAME BLANCHE…

悲劇役者  伊東昌子  (詩ランダム)

悲劇役者 伊東昌子 夢々を駭かしては 洋燈を灯して沖へ歸らう 永い旅のあとのように 林檎の花が燃える お午過は家禽たちの葬式 を見てゐる 『MADAME BLANCHE』第17号 昭和9年(1934年)8月 伊東昌子 海の方へ 伊東昌子 失踪するエロイカ 伊東昌子 南方飛行便 …

温雅なる作謀に付いて  酒井正平  (詩ランダム)

溫雅なる作謀に付いて 酒井正平 季 節 畵廊について鶴があるいた しかし それは戀人たちよりも少なかつた 手をひらいて窓をあけた ケイトウの裏側に 算用數字がかいてある 類 似 譚 太陽の 奔發 ! だけど 路には よつちや いない 片側に 倚せながら あたしは…

窓(Ⅱ) 酒井正平  (詩ランダム)

酒井正平にも「窓」というタイトルの作品がいくつかあるようで、検索の都合で「窓」Ⅱ としています。 窻 酒井正平 ソケツトに入れた家に疲れ花を花に返さうとする小さい慣ひでアントルシヤーおどる男がでてくる所は塔は曲らずにアンズの林が數多い飼ふ事より…

美しい季節 その他  西崎晋  (詩ランダム)

美しい季節 西崎晋 あの優しさの紫の花には緣飾りがあつてけふあのひとの瞳をわすれる流れの中にゐた水よ靜かにおりてくる夜の微笑やけもの達の群にもちかく菫は生れてゐたやうに 植物 水中植物には 星くづが墜ちてゐます泡たつ白のイペカはいかがです 醉つ…

声  荘原照子  (詩ランダム)

聲 莊原照子 襞がある手 夜々を支へる白い門扉 薔薇旗をすて去つた休息の巡邏が この冷ややかな立像の素足へ灰をふりこぼすと そこから無數の熱い夢が飛沫となつて生誕する……憐愍は漂ふ犬橇の鈴の音(ね)に耳環を漂らし乍ら かく散り呼ぶ 失意の灯(ほ)かげを…

沼欣一  (モダニズム短歌)

・下げ髪の馬車を見よ うららかさうに 囚人よ春をきれいな枝をつかひながら ・おもしろい春の遊動圓木を越えてくる かたつむりの窓が ああ 靑くて ・オランダの風車 ふたたび笑ふ 明方はやくあやめの花よ眼をあけよ ・雨はらんぷのやうに搖れるだらう 野づか…

海賊 その他  西川満  (詩ランダム)

海賊 西川滿 俺は船長だった。海洋の日没が俺の心を襲ひ、船腹を血に染めた。黒死病で倒れた舵夫の屍を水葬に附した後、俺はいつか盲目(めしひ)になつてゐた、盲目に。 豹 俺を救つてくれた若い豹よ。きみのそのたくましい肉體のうねりに、俺は愚かな過去の…

河  笹沢美明  (詩ランダム)

河 幼兒に與へる 笹澤美明 おまへから河が流れるまだ地下水のやうにかすかに響く兩岸はすべて宇宙だ季節は花々を映し月々は果實を投げる河口は遠くにあつて見えない未來とは夢だそれは神だおまへはつかむことが出來ないそれは時間の微粒分子が形づくる雲だお…

春苑  笹沢美明  (詩ランダム)

春苑 笹澤美明 かつては櫻の苑の中にゐたあなたの瞳(め)と一緒に、あなたは信賴されまるで樹々を支へてゐるやうであつたやがて花噴く枝を。 あなたは苑の中で堪えてゐたゲツセマネの園のやうな暴風の豫感の中で私が送り出す獸を冷かに一匹づゝ捕獲した。 つ…

光の淵  小方又星  (詩ランダム)

光の淵 小方又星 空は動いてやまない。生命がそこに躍つてゐるのだ。 秋の空は白熱の信仰に燃えてゐる淵だ。太陽は見えないがあの光つてゐる雲を讚美しよう。 實に寂かだ。しかし、歡喜の絕頂だ。白金の焰よ、その坩堝で何を溶かしてゐるのだ。 『古典的な風…

タイプ(Ⅱ)  酒井正平  (詩ランダム)

酒井正平には「タイプ」という題の詩がいくつかあるようで、検索の都合上この詩を「タイプ(Ⅱ)」とした。諒とされたい。 タイプ(Ⅱ) 酒井正平若しも あるとしたら ユリの如く さむさにふるえ 思ひだした クラブのテラスで まづいスマツクを 嚙つた ツバメがま…

タイプ  酒井正平  (詩ランダム)

タイプ 酒井正平 ☆ ハリイと名前の 付いた男に 一番近い曲り角を ロンギノスに乗つて スミが彈く ピアノが好きだといふ──手袋の白い女の人とならんで ハリイの子が寫眞をとつてゐる ☆ イチゴ畑にリボンを落した少女と ゴルフリンクで ボールを追つ馳けてつた…

会話  左川ちか  (詩ランダム)

會話 左川ちか ──重いリズムの下積になつてゐた季節のために神の手はあげられるだらう。起伏する波の這ひ出して來る沿線は鹽の花が咲いてゐる。すべてのものの生命の律動を渴望する古風な鍵盤はそのほこりだらけな指で太陽の熱した時間を待つてゐる。──夢は…

夢  左川ちか  (詩ランダム)

夢 左川ちか 眞晝の裸の光のなかでのみ現實は崩壊する。すべてのものは銳く白い。透明な窓に脊を向けて、彼女は說明することが出來ない。只、彼女の指輪は幾度もその反射を繰返した。華麗なステンドグラス。虛飾された時間、またそれらは家を迂回して賑やか…

白と黒  左川ちか  (詩ランダム)

白と黑 左川ちか 白い箭が走る。夜の鳥が射おとされ、私の瞳孔へ飛びこむ。 たえまなく無花果の眠りをさまたげる。 沈默は部屋の中に止まることを好む。 彼等は燭臺の影、挘られたプリムラの鉢、桃心花木の椅子であつた。 時と焰が絡みあつて、窓の周圍を滑…

悲しき恋  西條成子  (詩ランダム)

悲しき戀 西條成子 白い一片のハンカチイフは風に舞つて森の奥の靜かに靑む沼の面に落ちたのですそこは若葉がゆれゆれて駒鳥は唄ふ晩春でしたがやがて靑白く染つてハンカチイフは底知れぬ沼の暗さに沈んで行つたのです 『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933…

雲のかたち  左川ちか  (詩ランダム)

雲のかたち 左川ちか 高い波の銀色の門をおしあけて行列の人々がとほる くだけた記憶が石と木と星の上にかがやいてゐる 皺だらけのカアテンが窓のそばで集められ そして引き裂かれる 大理石の街がつくる放射光線の中をゆれてゆく一つの花環 毎日 葉のやうな…

春  左川ちか  (詩ランダム)

春 左川ちか 亞麻の花は霞のとける匂がする 紫の煙はおこつた羽毛だ それは綠の泉を充す まもなくここへ來るだらう 五月の女王のあなたは 『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933年)6月 左川ちか 雲のかたち左川ちか 白と黒左川ちか 花咲ける大空に左川ちか …

蜻蛉  井上多喜三郎  (詩ランダム)

蜻蛉 井上多喜三郎 靴みがきの大將は お天氣にまでブラシをかける 〈僕の足趾をとらへると のんきに口笛をふいて〉 スツールのまわりで いつも 香を噴く新英ら となりの花屋が頰に映つて僕を離れるネクタイでした。 ※原詩では、「映つて」の「映」→「うつ」…

目覚めるために  左川ちか  (詩ランダム)

目覺めるために 左川ちか 春が薔薇をまきちらしながら我々の夢のまんなかへおりてくる。夜が熊のまつくろい毛並をもやして殘酷なまでにながい舌をだしそして焰は地上をはひまはり。 死んでゐるやうに見える唇の間にはさまれた歌ふ聲の──まもなく天上の花束が…

冬の詩  左川ちか  (詩ランダム)

冬の詩 左川ちか 終日ふみにぢられる落葉のうめくのをきく人生の午後がさうである如くすでに消え去つた時刻を吿げる鐘の音がひときれひときれと樹木の身をけづりとるときのやうにそしてそこにはもはや時は無いのだから。 『MADAME BLANCHE』第4号 昭和8年(19…

花咲ける大空に  左川ちか  (詩ランダム)

花咲ける大空に 左川ちか それはすべての人の眼である。 白くひびく言葉ではないか。 私は帽子をぬいでそれ等をいれよう。 空と海が無數の花瓣をかくしてゐるやうに。 やがていつの日か靑い魚やばら色の小鳥が私の頭をつき破る。 失つたものは再びかへつてこ…

言葉  井上多喜三郎  (詩ランダム)

言葉 井上多喜三郎 帽子の中に言葉はなかつた。 帽子もすでに 儀禮を越えた。 僕等のまわりにもえてゐるお天気。 僕等は氣球よりも輕い。 飛翔する 不誠実な言葉の領域から。 『MADAME BLANCHE』第5号 昭和8年(1933年)2月 井上多喜三郎 花粉井上多喜三郎 徑…

時間  井上多喜三郎  (詩ランダム)

時間 井上多喜三郎 近よる時間を帽子の中へかくしておいた。 急いでやつてくるあの子。 僕は帽子をとつて 高く打振るのでしたが帽子の中からは 花粉が麗かにとびだして 僕等をすつかり包むのでした。 『MADAME BLANCHE』第10号 昭和8年(1933年)10月 井上多喜…

花見酔客  西條成子  (詩ランダム)

花見醉客 西條成子 襲ひ來る寂しさは秋のブドウの味でした美しく花の咲いた或日に旅人はその下に甘露の酒をのむのです夢は幾つもの山や河を越えてそこに旅人は唄ひ又踊るのでしたそんな夢からさめて旅人は又もたまらない秋の實を見出さねばならなかつたので…

静かな饗宴  澤木隆子  (詩ランダム)

靜かな饗宴 澤木隆子 わたしの明るい罪惡悔ゐなき魚族の沈默スリツパから立ち上る夕ぐれの虹のだんだら いもうと お前は明暗のレエスを引きしぼる緞帳の紅をゆすぶるここの階段にリユストルをともしてくれる おまへはわたしの足もとの疲れた花片をたんねんに…

星の転生  高木春夫  (稲垣足穂の周辺)

星の轉生 高木春夫 窓をあけて星をながめたとき風は赤ん坊の生毛のやふに、やはらかにさらさらと流れたではないかゆふぐれ、山のなかのひとつの池を眺めなんといふものさびしい遁世の志をいだいたことかその瞬間の頰えみを湛えてゐたことがいまは遠くすぎさ…