桃色の湖の紙幣  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

桃色の湖の紙幣 山田一彦 アフロデイテが小便しにかかつたら產んだ卵から桃色の花嫁が蝶蝶を追つて居る。女の女の少女の MANNEQUIN のアフロデイテは桃色の蝶蝶の蝶蝶の鳩の腕に花をさして居る。卵の卵を賣つて牛を買ふ紙幣の Mannequin―girl小便しそうにな…

Poesie d'OBJET d'OBJET 山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

Poesie d'OBJET d'OBJET 山田一彦 第五の彼である船長の息子。は夢の夢の旗の泡となる。その午後大女は抱擁して居る。額の狹きは春の唱歌。を歌ふ魚の魚の人魚。 Desillusion d'illusion Desillusion d'illusion流行の派手の鬚。薔薇の垣根のある飾窓の花瓶…

プリズムの夢  西條成子  (詩ランダム)

プリズムの夢 西條成子 レコードの上に踊る人形の様にもめまぐるしい虹色よそして失はれた南方の日々を懐しむ一ときには紫色の浮力に乗つてうるはしい肖像の搖り籠の中で天使のプロフィルを眺めやう。 『MADAME BLANCHE』第17号 昭和9年(1934年)8月 西條成子…

ハツプスブルグ家の森  近藤東  (詩ランダム)

ハツプスブルグ家の森 近藤東 宵闇がお前の室をだんだん暗くする。 お前はそれに逆らつて化粧する。 それは百年づつ昔を物語る。白い下肢のあたりから。 ハツプスブルグ家の森を愛撫する。 僕は僕の旅行を中止する。 鏡の中の椿の花が僕の唇へとんでくる。 …

春の約束  澤木隆子  (詩ランダム)

春の約束 澤木隆子 空の鏡が拭き清められたうらゝか地上の花を愛しむには面映ゆいけれど二ムフのやうに快い匂ひをふり撒き硝子の家から花達は招く 召し上れ 召し上れ 魔法色のお砂糖水彼女らの和やかな身のこなしに牽かれてうつかり人はそれをのむであらう二…

立原道造  (モダニズム短歌)

モダニズム短歌の番外編。東京朝日新聞の有名な企画「空中競詠」以後、結社をあげて新短歌へ移った前田夕暮の『詩歌』へ投稿された作品を中心にしています。旧制高校時代の作品で、ペンネーム三木祥彦を使っています。旧制中学時代は山本祥彦名義でアララギ…

夏の一頁  山中富美子  (詩ランダム)

夏の一頁 山中富美子 柱の下で過ぎて行く夏月曜日の長椅子の花の一むれつかれた頭を、そこにうづめる。瞳をそれて空の方へ。 雲は正午の壁の向ふに。玻璃の海の恐怖を浮べてものうく眠る。 日にやつれたガラスの茂みに涼しい日向の時計は空しく綠にかこまれ…

窓  井上多喜三郎  (詩ランダム)

窗 井上多喜三郎 インキ壺の海に 沈んで かなしい 僕でした。 颯爽と ゆきすぎる 白いパラソルの娘 僕は掬われる 原稿紙は 風にふかれて ハンモツクでした。 ※原詩には「パラソルの娘(こ)」と振り仮名があります。 『MADAME BLANCHE』第7号 昭和8年(1933年)6…

Mon cinematographe bleu 山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

Mon cinematographe bleu 山田一彦 蟹のやうな私の叔父さんが白百合の花を片手にささへて靑い錨で海に沈みますが浮きあがると浮袋をつけた私の妹になつて居るのですが 諸君べつに不思議ではないでせうね OEDIPE ROI には母親が自分の籠の娘たちを抱いて居る…

マダム・ブランシュ3  冨士原清一  (稲垣足穂の周辺)

3 白い霧がふつてきました。洋燈(ランプ)はさんさんと咽び、ガラスは昏々と眠り續けてゐます。高層建築は薄すれ、寺院の圓頂(ドーム)は夢のやうに沈み始めました。いま街は海底に明るい潜航艇の漏光を想像させ、私はこの白色の瀰漫してゐる濕潤ある液狀空間…

マダム・ブランシュ2  冨士原清一  (稲垣足穂の周辺)

2 すくすくと豊麗な月がシヤボン玉のやうにあがり、はたはたと靑いアルミニウムの旗をひるがへせば、實に素晴しくも華やかなガソリンの夜です。──それは靑い、靑い、靑い。はや踊り場のクラリネツトは風邪をひいてしまひました。 まあ──、なんて妙に明るい月…

高群郁  (モダニズム短歌)

久保田正文編『現代名歌選』は、新短歌を前衛短歌運動の一環として、プロレタリア短歌と区別していて、その新短歌のチャンピョンとして上田穆、中野嘉一、山田盈一郎、林亜夫とともに高群郁を ひとまとめにしているのですが、手に取った作品の多くがテーマ的…

寛大の喜劇  山田一彦  (稲垣足穂の周辺)

寛大の喜劇 山田一彦 Muse abstraite 圓るい鳩はミロのヴエヌスである: と太つたエレエヌはトーモロコシを見ながら唱つて居る 天子になつた俳優 "L'OPERA est une sorte des Venus" と太つた天子は笑ふ: オペラグラスを毀はした人間は鼻眼鏡を着けよ opera…

鈴木杏村  (モダニズム短歌)

『冬の琴:鈴木杏村遺歌集』(昭和35年)より。本来は、筏井嘉一編集『エスプリ』 を閲覧できれば良かったのですが、唯一所在の分かっている図書館が大学または研究機関に属している者にしか閲覧を許さないということで断念。戦前、白秋門下では、兄弟子達が歌…

育つ夢  荘原照子  (詩ランダム)

育つ夢 莊原照子 エリカの髪に頰を寄せて、わたしは白い垣根に別れを告げた。沙丘のその果てに夜の落葉がふるへてゐるとき、あなたのマントはどんなに長く地をはらつて行つたらう。けふわたしの指に唯二つ光つてゐる外米。どこか遠い星の蔭にゐて、ああエリ…

記憶  澤木隆子  (詩ランダム)

記憶 澤木隆子 1目をつぶると顔が見える。それは顔のない顔、輪郭だけの顔、無數の顔 顔 顔、 2顔の中の一つがはつきりと浮び出す、一つの記憶のMAKE UP それは『怖るべき顔』ではない。 私は目を開ける 3子供らよお出で、童話(はなし)をして上げよう、そこ…

急行列車  折戸彫夫  (詩ランダム)

急行列車 折戸彫夫 急行列車は發車した──マグネサイレン (街はスクリーンの中にあるのです)機械座をレールは走つた──ピストンの街 (ラツシユ・アワーは劇場に白薔薇と脚光を撒いてゐました)爆音です。No.3333──U型のカーブがある (アルミニウムの圓筒と白い…

心  澤木隆子  (詩ランダム)

心 澤木隆子 叢には草花が咲き 山の端に月も 痩せてゐる。ふところ手をして歩いてゐるとだんだんと心が自分から離れて行くのであつた。 『Rom』(紅玉堂 1931)より 澤木隆子 記憶澤木隆子 額のばら澤木隆子 雪 詩ランダム

女教  広江ミチ子  (詩ランダム)

女敎 廣江ミチ子 1 クロモゾオメン 1 時計 2 時計 3 紙製飛行便 ガチヤガチヤつと 印刷して いツ氣に 車體を發光せよ 2 歴 史 巨大な單色を透過する 半開の世紀版 ふりちぎつて しづかな正視をしつづけよ ダイアルをまはして 交易の 印を截る 3 背 馳 坂は決…

薬屋  広江ミチ子  (詩ランダム)

藥屋 廣江ミチ子 苺ほどそこいらだけがあかるい 目盛りのやつれた グラスをかたむけて 糸を壓すと海が みるみるゆれて來て 私には ビンの列しかわからない 『VOU』第4号 昭和10年(1935年)12月 広江ミチ子 行列 広江ミチ子 女教 詩ランダム

行列  広江ミチ子  (詩ランダム)

行列 廣江ミチ子 彈丸よけのラシャ店 シヤボン屋はひげ剃り中 それで貸家は いたるところに 牡蛎のボタンをしるした その町は月夜で ゆびなど くみ合つたまま捨てられる 『VOU』第4号 昭和10年(1935年)12月 広江ミチ子 薬屋 広江ミチ子 女教 詩ランダム

その日に聞かう  酒井正平  (詩ランダム)

その日に聞かう 酒井正平 遠い野の様な表情の中で 咲き暮れたものを取り戻す仕草を なぞらへる様に 古い風景の中に閉ぢ込められた一幅の山水をわけ隔てなく感ずる事により 差別させられたる憧憬をみつもられた懸念の中にと追ひやりながら路々に足りないもの…

果たして泣けるかについてきみは知らない 酒井正平  (詩ランダム)

果して泣けるかについてきみは知らない 酒井正平 雪の中でぼくはみたペリカンはペリカンであつたと十棟の夢が僕を裸にする馬がその活素を吹きながした僕はベッドの上でバラを嗅いだセンセイョと僕は白い髯をみたセンセイョぼくは馬になりたいみよ 町はミルク…

日傘  江間章子  (詩ランダム)

日傘 江間章子 私は午後の庭園を横切る。冷たい石疊に燃え上る花模様の翳を踏んで。白く濡れた林の向ふで搖れるのは仄明るい鏡である。その鏡に映る見知らない村。共同墓地の上に眞靑な太陽がのぼる。すると、木蔭の卓子に俯伏してゐる男の手から陽光のやう…

光の氷花  乾直恵  (詩ランダム)

光の氷花 乾直惠 僕は吸入器の天使らに慰安を求めなければならない。垂した白いエプロンに、一ところ肺臓型の汚點(しみ)がある。 僕は規則正しく服藥しなければならない。手のオブラートは薄い。去つて行つた戀人のやうに。 僕はレントゲン光線の前に立たせ…

朝は白い掌を  乾直恵  (詩ランダム)

朝は白い掌を……… .. 乾直惠 朝が白い掌を私の額に翳す。私は新しい翼を生やす。 私は窓を開く。家家をめぐつた樹木は、もはやみんな葉をふるつた。それは約束された切手のやうに、吹き曝らされた小庭の隅や軒下に聚り、毀れた私の人生觀とともに蹲まる。 私…

村  乾直恵  (詩ランダム)

村 乾直惠 村の端れの傾斜した、公衆自働電話。破れた硝子戸に、千切れた夕雲が流れてゐる。水車番の腰のやうな把手が嗄れたその聲のやうな呼鈴の音が、遠い岬の松籟をひびかせる。 悪いことをした覺えはない。 だのに、私は送話器の雲母の 谿間から、この世…

雪  澤木隆子  (詩ランダム)

雪 澤木隆子 いたく初雪の積つた晩消えがてのピアニツシモは鍵にふるへて古風な情緒を呼び 冷えてくる體内(からだ)に 何かあはれなよろこびの如きもの漲り 白い その雪の葩(はなびら)に埋れて こんこんと眠つてしまつた。 『Rom』(紅玉堂 1931)より 澤木隆子…

額のばら  澤木隆子  (詩ランダム)

額のばら 澤木隆子 何も言はずに莨を吸ひませう、部屋中が煙でいつぱいになつたら私も窓を開けて出て行きます。 出て行く私を憐れむんぢやありませんよ、 雲つた額には恒に薔薇を挿して居ります 『Rom』(紅玉堂 1931)より 澤木隆子 記憶澤木隆子 心澤木隆子 …

極光  乾直恵  (詩ランダム)

極光 乾直惠 あなたは三角洲の葦間から、流暢な各國語でぼくに喋りかける。 ぼくはいちいちそれを懸命に、速記する、翻譯する。──アノ橋ノ袂二、アノ橋ノアチラガワノ袂ニハ……──誰カガムカフ岸二、誰モムカフ岸二ハ…… 長い鐵橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐ…