神の白鳥  乾直恵  (詩ランダム)

 

神の白鳥

       乾直惠

神さまが、膝でスワンを慈しむ。
御手にふれたこの拔け羽毛(げ) !

ぼくは冷たい歌を思ひ出す、
塒をさがす小鳥のやうに。

ぼくはあなたの毛皮のなかへ走りこむ、
ストーヴに凍(こご)えた兩手を翳すために。

ぼくはあなたのスエーター・ポケツトに潜りこむ、
團欒の、明るいピアノを聽くために。

 

 


※「羽毛」2文字で「げ」

『花卉』(椎の木社 1935)より

 

 

 

乾直恵 朝は白い掌を
乾直恵  Echo's Post-mark
乾直恵 菊
乾直恵 極光
乾直恵 睡れる幸福
乾直恵 鮠
乾直恵 光の氷花
乾直恵 村

 

詩ランダム

シユミイズ  荘原照子  (詩ランダム)

 

シユミイズ         

           荘原照子

シユミイズは疲れてゐる。うす黄ろい花粉にまみれて。

白絹のシユミイズ。シユミイズはぐつたりと、靑い壁紙にもたれてゐる。

シユミイズ。洗つても消えない、汚點をもつ。

シユミイズ。雪野(せつや)の、シユミイズ。

 

 

 

 

マルスの薔薇 : ろまん・ぽえじい』昭森社 昭和11年(1936年)

 

 

 

 

荘原照子 魚骨祭
荘原照子 育つ夢
荘原照子 鷲の棲む皿

 

詩ランダム

 

 

 

 

 

魚骨祭  荘原照子  (詩ランダム)

 

魚骨祭       

         莊原照子

夕べ 假死した木立のうへで 侘しい手風琴を鳴らしてゐる
靑い仔鴉よ 充たされないおまへの食欲よ

けふ わたしは一さじの果汁を啜った
昔 搖りかごの谷間にさめた
そこですみれの花をたばねた
而も今 此の翳ふかき白磁の食器には 膓結核 唯するどい魚骨の棘あるのみ

夕べ 喪服の仔鴉よ 吹き鳴らせミゼレーレ
こわれたロマンの手風琴
激しいいたみに憑かれ乍ら おまへはまた呑みくだす
灰黄いろい花粉を アヘン末を

 

 

マルスの薔薇 : ろまん・ぽえじい』昭森社 昭和11年(1936年)

 

 

 

 

 荘原照子 シユミイズ
荘原照子 育つ夢
荘原照子 鷲の棲む皿

 


詩ランダム

 

詩ランダム

 

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伊東昌子 失踪するエロイカ

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乾直恵 朝は白い掌を

乾直恵  Echo's Post-mark

乾直恵 神の白鳥

乾直恵 菊

乾直恵 極光

乾直恵 睡れる幸福

乾直恵 鮠

乾直恵 光の氷花

乾直恵 村

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このブログ作成に関してオーテピア図書館(県立図書館や市民図書館だった頃から)の若くて優秀な司書さん達に御協力戴きました。司書さん達の適切なアドバイスやインスピレーションのおかげでこのブログが出来た、というより、その方達がいなければこのブログは生まれていなかったと痛感しています。感謝。

 

 

 

 

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舞踏靴  江間章子  (詩ランダム)

 

舞踏靴

      江間章子

白い帆前船の壁繪。
ヴエニスの商人達が乗り込む。
かつて、彼等は砂丘を越えた。
波の白い炎に追はれて。

靑い提灯に火を點したあと
私たちはそつと去るだらう
暗闇の庭に沿つて。
夜の扇子の上に
月の出があつた。

風に吹かれて、けふ、私は赤いカンナ。
スペイン風の椅子に凭れて贈られた名刺の裏に時刻を書き止める。

 

 

 

江間章子 日傘

   

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睡眠  山中富美子  (詩ランダム)

 

睡眠

        山中富美子

白い叢に隠れて、眠る天の腕が私を抱きにくる。私の足が地を離れる。毛布が脱げる。身体が雲の外に出る。翼が空を切る、私は海に飛びこむ。波は私を呑み、その口から一個の石を吐き出す。寢臺の中でそれが薔薇色の肉體に變る間、天の地圖の上で、はぐれた夢が路を探してゐる。夜明の地球へ歸つてゆくために。

 

 

 

野田宇太郎編『火枝』(糧発行所 1939)

 

 

山中富美子 思出

山中富美子 海岸線

山中富美子 姿勢する

山中富美子 聖夜

山中富美子 園の中

山中富美子 沈默

山中富美子 夏の一頁

山中富美子 夜のイニシヤル

山中富美子 夜の花

 

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苑の周圍   饒 正太郎  (詩ランダム)

 

苑の周圍        

           饒 正太郎

あらゆる草木の上に《春の聲》が弱い光の中で激しい喜悦、弦樂のアリア。

アトリエの扉が花の様に開く。
ローズ・ド・コバルトの丘、續いてジヨーヌ・シトロンの丘。

小鳥は樹木の間から靜謐の苑を眺める。この無智の魚達。

   神秘の森に獨り殘された黄い墓地。
   その中では空と海とが限りなく重合つてゐる。

花 花 花 情熱の緋を摑んで私は昏倒する。額の上では音樂が燐の様に燃えてゐる。

       *

こゝは思索の起らぬ《室樂の苑》。不協和音を畵く花達の呼吸(いき)。私の髪は逆立つ、海の影で。

《海の生誕》

    海邊には今迄知られなかつた美しい貝殻が陽炎の面に透徹つて見える。
    若い魚夫達は各々の獲物を求めて情熱の海に沈むのだ。

微風はアダアヂオの小徑を開いて《西の苑》へ。

       *

無數の香と無數の色彩が今やこの苑の傳統を飾るのだ。凡ての人達はこの秘密を知つてゐる。
ただ花達は靜謐の乳を好むのだ。

       *

嵐の脈を斷切つて薄暮の丘は海の様に曇つてゆく。

夕暮こそこの苑の凡ての秩序だ。

羽搏きが止む。私は不眠の時を知る。美しいアーチからは絕えず悦樂(よろこび)と歎聲の言葉が聞えて來る。噴水のひゞきと古い記憶。

肖像が燃える。匂が燃える。
霧の海を花瓣が靜かに墜ちてゆく西風のアダアヂオ。

 

 

饒正太郎 オペラの部
饒正太郎 白いCabin

 

 

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